「ガンジーを例に出して平和のスキーマを世界に提示したフランチェスコ」旅するローマ教皇 talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
ガンジーを例に出して平和のスキーマを世界に提示したフランチェスコ
戦争から、紛争から、憎しみから、孤立から、武器売買から、貧困から、難民から、グローバル化してしまった無関心から「私達を止めてください」。
フランチェスコはメキシコの刑務所に赴き投獄者の一人一人を抱きしめ、大きな台風被害を受けたフィリピンでは皆と同じ黄色の薄いビニールの簡易レインコートを着て皆のために祈る。カナダでは、先住民の子ども達を親や家族から離し寄宿学校生活を強制する植民地政策と同化政策、つまり先住民の言語と文化破壊にキリスト教が加担した過去を謝罪する。聖職者による性被害を受けた人々への説明で「証拠」という言葉を使ったこと、それは被害を受けた人々を更に傷つけた、被害の「証明書」を出せと言うのと同然だったと謝罪をする。
キリスト教が人々に流させた血はもっとある。それでもまず今、問題になっていること、フランチェスコが時代的にも事柄としても全く関わりようがなかったこともバチカンのトップとして謝罪する。その真摯な行動と謙虚さを世界中の政治家に学んで欲しい・・・と思うが、政治家だけでなく人間全部が社会が変わってしまった。社会と人間をこれ以上変化させないでほしい、「止めて下さい」と言えた最後の一人がフランチェスコだったのかも知れない。
タンゴの歌詞を例に出したり明るく楽しい笑いもあった。フランチェスコの言葉はゆっくりで優しく明瞭だ。パパがよく使う言葉で私も好きなのは、泣く(piangere)、夢見る (sognare)、そして耳を傾ける(ascoltare)。歩くのが不自由になってくる後半のフランチェスコを見るのはつらかった。「旅」をいつも複数形で表現していたフランチェスコは旅をやめない。
アーカイブ映像をほぼ時系列に並べたナレーション無しの映画。人が大好きで笑顔が可愛い、「宗教」の権威も線引きもとっぱらったフランチェスコ。人間全部の苦しみと悲しみを背負ったフランチェスコが私達の代わりに私達の為に「私達を止めてください」と神へ祈るシーンでこの映画は終わる。