旅するローマ教皇のレビュー・感想・評価
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「正しい戦争」はない
ナレーションは一切ない。
文字データも、冒頭で概略が示される以外は、訪れた地名のみ。
BGMも最小限。基本、現地の音と声。
「一緒に旅にでましょう」っていうポスターのコピーは、軽薄至極で鳥肌が立つ。
教皇フランシスコ(アルゼンチン出身、初のイエズス会出身、在位2013~25)の旅は、そんな軽薄なものではない。
イスラムとの対話、正教との対話、そして虐待への謝罪、等々。
タフな旅である。
ときには、マスコミの取材にキレたりする。
(これも、のちに謝罪)
* * *
ただ、「旅する教皇」と言われたのは、彼が初めてではない。
初めてそう呼ばれたのはおそらく、パウロ6世(イタリア出身、在位1963~78)。
教皇として初めて五大陸を巡り、教会改革も推進した。
つづくヨハネ・パウロ1世(イタリア出身、1978年8~9月)は在位が短かった(改革派だったが故の暗殺、とする説がある)が、
その後継のヨハネ・パウロ2世(ポーランド出身、在位1978~2005)は、パウロ6世をはるかにしのぐスケールで世界を訪問して「空飛ぶ教皇」と呼ばれ、
そもそもポーランド出身ということもあり、冷戦終結とその後の世界で重要な役割を果たした。
ただ、その次のベネディクト16世(ドイツ出身、在位2005~13)が保守派だったことが、
フランシスコの「旅」を際立たせているのかもしれない。
* * *
教皇フランシスコが一貫して訴えたのは、
人間の尊厳、共存、寛容、平和。
「すべての戦争は正しくない。正しい戦争はない」
――まさしくその通りだと思う。
彼に権威はあっても、権力はなかったかもしれない。
しかし、理想を語り続けた。
語り続けることは、重要。
ただ、
語るだけ、という空疎なものに終わらせないためには何が必要か、
カトリック(なかんずくイエズス会)の過去の所業を振り返ると、さらなる省察が必要だろう。
* * *
ともあれ、
教皇フランシスコの冥福を祈ります。
そして新教皇として、
変な人が選ばれませんように。
ガンジーを例に出して平和のスキーマを世界に提示したフランチェスコ
戦争から、紛争から、憎しみから、孤立から、武器売買から、貧困から、難民から、グローバル化してしまった無関心から「私達を止めてください」。
フランチェスコはメキシコの刑務所に赴き投獄者の一人一人を抱きしめ、大きな台風被害を受けたフィリピンでは皆と同じ黄色の薄いビニールの簡易レインコートを着て皆のために祈る。カナダでは、先住民の子ども達を親や家族から離し寄宿学校生活を強制する植民地政策と同化政策、つまり先住民の言語と文化破壊にキリスト教が加担した過去を謝罪する。聖職者による性被害を受けた人々への説明で「証拠」という言葉を使ったこと、それは被害を受けた人々を更に傷つけた、被害の「証明書」を出せと言うのと同然だったと謝罪をする。
キリスト教が人々に流させた血はもっとある。それでもまず今、問題になっていること、フランチェスコが時代的にも事柄としても全く関わりようがなかったこともバチカンのトップとして謝罪する。その真摯な行動と謙虚さを世界中の政治家に学んで欲しい・・・と思うが、政治家だけでなく人間全部が社会が変わってしまった。社会と人間をこれ以上変化させないでほしい、「止めて下さい」と言えた最後の一人がフランチェスコだったのかも知れない。
タンゴの歌詞を例に出したり明るく楽しい笑いもあった。フランチェスコの言葉はゆっくりで優しく明瞭だ。パパがよく使う言葉で私も好きなのは、泣く(piangere)、夢見る (sognare)、そして耳を傾ける(ascoltare)。歩くのが不自由になってくる後半のフランチェスコを見るのはつらかった。「旅」をいつも複数形で表現していたフランチェスコは旅をやめない。
アーカイブ映像をほぼ時系列に並べたナレーション無しの映画。人が大好きで笑顔が可愛い、「宗教」の権威も線引きもとっぱらったフランチェスコ。人間全部の苦しみと悲しみを背負ったフランチェスコが私達の代わりに私達の為に「私達を止めてください」と神へ祈るシーンでこの映画は終わる。
色んな言語で平和を願うスピーチ
宗教の最高指導者の一人としてなすべきこと
想像以上に面白かったです!
今こそ観るべき作品
圧倒されました
ナレーションはなく、教皇フランシスコの言葉だけで繋いでいるドキュメンタリーです。
歴史や世界情勢に明るくなく、理解できないところもありましたが、心に残る言葉がたくさんありました。
「どうしてここにいるかではなく、なんのためにここにいるのか、を考える」
「無関心のグローバル化」が問題だ
「対話」で問題を解決する
「夢」が大切
9年で37回の旅、それも被災地や、紛争の舞台や、歴史的に問題をかかえているようなところばかりの訪問です。
キューバ正教、アルメニア/トルコ、パレスチナ、イスラエル/聖墳墓教会、カナダ先住民/寄宿学校、台風ヨランダ、メキシコ/シウダー・フアレス、日本/広島、性的虐待…どれもこれも大きな問題とその舞台です。
個人的に、教皇の帽子が取れることがないのか気になっていたのですが、帽子が風で飛ばされている映像があり、やはりくっついているわけではないのだと確認できてよかったです。
ところどころで、とてもチャーミングな教皇の笑顔をみることができて、親近感がわきました。
壁というもの
世界各地を回られたお姿、 行動力と、一貫性のあるお言葉に、感心して...
世界を駆け巡るスター教皇の精神性を見せる
イタリア映画祭の特別上映で見た。かつてのヨハネ・パウロ2世のように世界伝道に熱心なフランシスコ教皇の世界各地の訪問の際の言動のみを、余計な解説や演出なく撮ったピュアなドキュメンタリーである。カメラが教皇の近くにあるので、ブラジルでは左右だけ開いたパパモビルに群衆が国旗やサッカーのユニフォームを投げ込むところなども見られた。コロナ禍の2020年にサン・ピエトロ広場で御付きがいるだけで一人で祈りを捧げる姿もあった。
冒頭は2013年に移民船事故が起きたランペドゥーサ島でのスピーチである。この映画を撮ったジャンフランコ・ロージ監督の前作がランペドゥーサを描いた「海は燃えている」であり、今年の冬には半島南部で移民船事故もあったように、現在も続く移民問題を想起させてくれる。刑務所の訪問や、カトリック聖職者の児童虐待についての反省の弁や、被害者たちのデモの様子も見られる。
これは幸い、秋から全国で上映されるらしい。現代世界の諸問題を考えるためにも、見るべき映画である。
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