「両思い世界」片思い世界 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
両思い世界
美咲、優花、さくら。
東京の片隅の旧い一軒家で一緒に暮らしている。
今度は広瀬すずが長女になって『海街diary』のような…いや、3人は姉妹ではない。
姉妹ではなく、まだ若いのに12年も一緒に暮らしている。どういう関係…?
それぞれ仕事に行ったり、大学に通ったり。家に帰ると他愛ないお喋りしながら一緒にご飯を食べたり。う~む、この中に入りたいぜ…。
平穏な暮らしをしているが、職場や大学で孤立していたり、会話が噛み合ってなかったり。社会不適合者のシェアハウス…? そこまで社会に順応してないようには見えない。
何故か時々他人に話し掛けても無視される。目の前に顔を近付けても気付かれない。コンサート会場でお喋りしてても誰も注意しない。ステージに立って大声で叫んでも、彼女たちの声や姿は、聞こえてない、見えていない…。“片思い世界”というタイトルが秀逸。
彼女たちは何者…?
実は、公開中にふとした拍子に彼女たちの“秘密”を知ってしまった。映画で時々ある設定ながら、何も知らなかったらやはり驚き意外…!
3人は、すでに死んでいる。つまり、幽霊なのだ。その経緯は…
12年前に起きた児童合唱コンクール無差別殺傷事件。3人はその犠牲者。
死んだら天国に行くかと思いきや、現世に留まり、生者のように暮らし、成長もしている。3人で暮らし始めた時まだ子供だったが、もう大人だ。
全く新しい幽霊像がユニーク。現世に留まる幽霊が皆が皆、廃屋でボロボロの白い服を着て前髪を垂らしてなんかいない。あんなの嘘だよ。…と、そんな定番幽霊映画をキャーキャー言いながら見ながら、幽霊ご自身がツッコむんだからごもっとも。
こんな可愛い幽霊なら…と思うが、見えない事をいい事に生者の傍にいたり後をついて行ったり、車や家の中に上がり込んだりと、やってる事ストーカースレスレ。
でもそうなると、腑に落ちない点が多々。
小さい頃から3人でどう暮らしてきた…?
生者のように暮らしているんだから、生活費は…? 食事は…? 衣服や身の回りのものなどどうやって手に入れた…?
まさか盗み…? 幽霊だからと言ってそれはいけません!
何かを見たり書いたり、物を掴んだり出来る。
職場のパソコン、水族館のバケツ…。勝手に動いたポルターガイスト現象…!?
でも、そうなってないようになっている。
3人が暮らす家の内装はとってもお洒落。しかしある日、買い手が付く。元々長らく空き家。生者から見れば廃屋だが、3人から見れば綺麗になっている。どういう事…??
現世に暮らしているようだが、実は3人がいるのは、現世とほとんど同じだが現世とは少しズレた並行世界…って理論。
分からなくもないが、ややこしい…。となると…と思うとまた疑問が生じるだけなのでここらで止めておこう。
坂元裕二オリジナル脚本。全く新しい幽霊像やユニークな世界観はいいが、ちょっと設定の詰めが甘かったかな。
さてさて、単なるキュートな女子幽霊たちの日常とシェアハウスじゃない。
3人は向き合う事になる。それぞれの思いと…。
ある日、元の世界に戻る方法を知る。
知ったのは毎日何気なく聞いていたラジオ。そのパーソナリティーは実は…。
大切な人に思いを伝える。その時生じた素粒子と…って、まさかの物理学。
専門的な言葉を並べると最もらしく聞こえるが、ファンタスティック設定に物理学って…。
思いを伝えた後、某所から“飛べ”。
何か胡散臭いが、そもそももし元の世界に戻れたとして、それは自身のままで生き返るという事…? 前世の記憶を持ったまま輪廻転生…?
ここら辺もまたまた疑問生じるのでさておき、
3人はそれぞれ思いを伝えたい人がいた。
優花が思いを伝えたいのは、母・彩芽。
花屋で働いている母を、偶然街中で見掛けた。
娘を亡くし今も悲しみに暮れているかと思いきや、再婚し新たな娘にも恵まれていた。
幸せを取り戻した今の母に安堵する一方、寂しさも…。
そんな母に、思いを伝えたい…。
さくらの場合は、ちょっと違う。
週刊誌で自分たちを殺した加害者が刑期を終え、釈放された事を知る。
未成年だった故、“少年A”。出版社(に忍び込ん)で名前と今働いている場所を入手。
増崎。港の倉庫管理会社で働いている。
“思い”なら伝えたいでなくてもいい。
さくらは聞きたい。何故私たちを殺した…?
美咲が思いを伝えたいのは、バスで見掛けるアホ毛の青年。
美咲は彼が誰だか知っていた。
あの時合唱コンクールに居た将来が有望視されていたピアニストの典真。
事件が起きた時たまたまコンビニに買い物に行っていて難を逃れた。しかし、そのショックでピアノを止め…。
ピアノも人生も諦めたようにひっそりただ生きるだけの典真。言われないと気付かないくらいオーラを消した横浜流星に驚く。
そんな典真に、思いを伝えたい…。
3人のパートが巧みにリンクするのかと思ったが、そうでもない。リンクするのは優花とさくらのパート。
彩芽も情報を仕入れ、増崎に会いに行く。
優花を失った悲しみは癒えていなかった。
訴え、悲しみの思いをぶつける。そんな母を見て、優花は…。
服役し罪を償い、彩芽の訴えは増崎に…届いていなかった。
感情が無いかのように、全くの無反応。何故娘を殺したの!?…この一番の訴えにも無反応。
ただ刑期を終えて出てきたら赦される訳じゃない。当人が心から悔やまないと。
全く反省の色が無いこのクソ野郎を塀の中に戻せ。
全く感情が無い訳じゃない。増崎の態度についつい揉み合いになり、隠していたナイフを…。増崎はそれを奪って…。
このクソ野郎を塀の中に戻したら二度と出すな。
その前に天誅が下されたが…。
結局加害者から殺害に至った理由を聞く事は出来ず。
母の思いは聞く事は出来た。ここは感動ポイント。
が、やはり比重が置かれるのは美咲のパート。典真への淡い思いを込めたシークエンスも感動的だが、結局淡い恋模様になってしまうのはちとベタだったかなと。
でも、またピアノを始め人生への再演を奏で出した典真が追悼コンサートで、3人も出席し、子供たちと、あの時歌えなかった歌を歌うクライマックスは温かさと感動高らかに。
『花束みたいな恋をした』の監督・土井裕泰と脚本・坂元裕二が再タッグ。年間ベスト級を期待していたのだが、腑に落ちない点多々によりちと期待は超えられなかったかなと。
しかし、良作ではある。
展開や設定に難ありだが、作風は心地良い。
家の内装が素敵。手離すのは惜し過ぎる!
衣装もファッショナブル。
何より、広瀬すず×杉咲花×清原果耶のケミストリー! これだけでも見る価値ありの眼福。
伝えられなかった思い。
伝えたい思い。
伝わった思い。
この世界は“両思い”に溢れている。
そんな世界へ、元気でいてね。じゃあね。またね。
