劇場公開日 2025年4月4日

「伝えられなかった思い、伝えることができない世界…」片思い世界 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0伝えられなかった思い、伝えることができない世界…

2025年6月13日
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鑑賞方法:映画館

広瀬すず、杉崎花、清原果耶が三姉妹を演じる(姉妹じゃないけど)と聞けば、観ないワケにはいかない。
しかも、脚本は坂元裕二で土井裕泰が監督。
彼女らのトリプル主演企画が先に決まっていて、脚本は当て書きされたらしいのだが、そもそも坂元裕二の発案だったようだ。ただ、プロジェクトが始動してから脚本の執筆を始めたとか。

この映画にはある意味で驚いた。
こんな物語だったとは全く知らなかったので、『花束みたいな恋をした』の路線を期待すると肩透かしを喰らう。

三人娘の秘密が割と早々に分ってしまったので、オチが見えたと高を括った私は愚かだった。
タイトルにある「片思い」と「世界」の意味が終盤でなんとなく解ってきて、M・ナイト・シャマランの出世作や、アン・ハサウェイが主演したスリラー映画とは、決して同種類ではなかった。

最近の坂元裕二は、異次元の交錯というか、あの世なんだかパラレルワールドなんだか、そんなところに踏み込んだみたいで、このまま〝セカイ系〟に突き進んでしまうのではないかと心配になってしまった。どうやら、そこまでのつもりはないようだ。
殺人事件の裁判の判決文で、被害者のことを「何ら落ち度のない…」と形容されることがよくある。
自身に何も責任がない状況で他人に命を奪われた人の無念は、いかばかりだろうか。子供ならなおさら、まだ見ぬ先の人生を生きたかったことだろう。
この映画は三人娘の秘密がオチではないのだが、公式サイトでも伏せているようなので、この辺に止めておく。

「片思い」とは、遂げられなかった(未だ遂げられていない)思いのこと。若い彼女らにそういう思いがあるのは当然だ。
広瀬すずにとっては、男女の恋愛。
相手役の横浜流星は、かつて広瀬すずを蹂躙する暴力夫を演じたが、今回は正反対のキャラクター。とはいえ暗い影のある役が明るい役よりも似合う。彼にも片思いは残っていた。
杉崎花にとっては、母娘の愛。
母親役は西田尚美。彼女の片思いは驚くべき行動に走らせる。
一方、清原果耶の片思いはひねくれている。
こちらの片思いに対するあちらの片思いが、彼女のケースにはない。
このヒネリに、ちょっと違和感を抱いた。なにか、釈然としない。
これが原因なのか、灯台を舞台にしたクライマックスもいまひとつ盛り上がらなかった。

広瀬すずと横浜流星の思いが交錯する切なくて美しい場面は、この映画の一番の見どころだと思う。
たが、歌劇の脚本というアイテムの使い方が有り体だったのが残念だ。
西田尚美の行動は突飛すぎて引いてしまったが、彼女が抱き続けてきた苦しみを吐露する迫真の演技には圧倒的な説得力があった。さすが、日本のテレビドラマ・映画では欠かせないポジションにいる女優だ。
合唱コンクールの締めくくりはちょっと面映ゆかったが、三人が無邪気さを精一杯に表現していて、合唱曲の歌詞も相まって綺麗だった。

全体的にはファンタジーファンタジーし過ぎの感があって、坂元裕二脚本作としては私は不満足だったが、ご自身にとっては会心の出来だったようだ。
私の期待する方向とは違う、作家の向いている方向があるのだろう。

エンドロールを見て、あれは松田龍平だったのかと驚いた。リリー・フランキーかと一瞬思ったので(笑)

kazz