「それでも「生きてゆく」」片思い世界 LittleTitanさんの映画レビュー(感想・評価)
それでも「生きてゆく」
評価が難しい映画。朝ドラ3ヒロインのワチャワチャは眼福さし癒やさました。ただ、消化不良な描写も散見され、企画とキャスティングの手柄を、脚本が足を引っ張っている様にも感じました。
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1. 半分当たった予感
殆ど中身を語られない番宣が続きましたが、ネタバレを気にし過ぎる宣伝体制や「12年」や「片思い」のキーワードから、ヒロインが津波で亡くなった幽霊少女達ってお噺かも...と自分は感じてました。なので、現代パートの冒頭で阿澄さくら(清原果耶)が他人に触れないように街を闊歩する姿に、あぁ「The Sixth Sense」(1999)ねと確信しました。ただ、実際の死因は災害ではなく少年犯罪だったので、宣伝がバレバレ過ぎという訳でもないし、肝の設定は割と序盤で明かされたので、読みが当たって興冷めという感じでもありませんでした。
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2. 被害者遺族の罪悪感
脚本・坂元裕二なので、どうしても「それでも、生きてゆく」(2011)を想起します。「それ生き」は、少年犯罪の被害者遺族と加害者家族の人間模様。衝撃的だったのが、被害者の兄(瑛太)の心理描写。7歳の妹を親友(当時14歳)に殺害された兄(当時14歳,現在29歳)は、親の言いつけを無視して、妹を放っておいた罪悪感に15年間苛まれ続け、生きる気力を失った廃人のような日々を送っていました。
この姿は、本作の高杉典真(横浜流星)に重なります。自分が誘った合唱クラブで友人が殺され、たまたまその瞬間外出していて自分だけ無傷だった事への罪悪感。打ち込んでいたピアノを完全に放棄していまう程のトラウマを残されました。
「それ生」で更に衝撃的だったのが、第1話の終盤。父が犯人には罪悪感がなく、何なら犯行を美化している可能性すらあると訴えたまま病死した事で、兄は犯人への復讐を誓います。罪悪感で無気力だった兄が、復讐という目標ができたことで生きる気力が湧き、死んだような目が次第に爛々としていく姿が恐ろしくも見事でした。
それに比べ、本作が描いた典真の再生は若干物足りないです。相良美咲(広瀬すず)の想いが通じたのか、発見される音楽劇の台本。明確には描かれませんが、典真は美咲の劇を実現しようと思いたったのか? その意欲が、再度ピアノに向かわせたのか? 本当に音楽劇は実現したのか? その部分が描かれるのを期待してしまいました。ただ、美咲の台本に彼女の創作意欲や才能を感じる事で、却ってトラウマが深まる可能性も否めません。「ルックバック」(2024)のヒロインが被害者を漫画の世界に誘った責任を感じたように、合唱へ誘い助けたつもりが、才能を奪ってしまったと余計に落ち込まないでしょうか。美咲は典真に抱きしめられ満たされたとしても、典真は彼女の温もりを感じられておらず。美咲の台本を目にしただけです。典真が未来を向けるようになる迄の心の動きを、もっと描写してほしかったです。
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3. 加害少年は皆、サイコパスか?
本作も「それ生き」も、加害少年は絶対悪(サイコパス)として描かれます。少女を殺していい理由などないし、少年院で更生される可能性も、素人には分からない部分はあります。少年院出所後の再犯率は29%。小さい割合ではありませんが、7割は再犯しない程度には更生し得るとも考えられます。にも関わらず、2作品で加害少年を救わない坂元氏には、強い意志(作為?偏見?)を感じます。返事を返さない加害者に納得できない被害者の母(西田尚美)の憤りも分からなくもありませんが、包丁を突きつけて再犯を誘発する展開は必要でしょうか? 美談にする必要はないけど、7割居る再犯しない少年の後半生を描く物語も観てみたいです。
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