「愛おしい人を思う想いが溢れ出す」片思い世界 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
愛おしい人を思う想いが溢れ出す
東京西部の街。
公園を抜けた先に在る昭和レトロの瀟洒な洋館に
二十歳そこそこの女性が三人暮らしている。
『美咲(広瀬すず)』『優花(杉咲花)』『さくら(清原果耶)』の
顔は似ておらず、どうやら血の繋がりは無さそう。
ただ、和気藹々とじゃれ合う姿は、
姉妹と言っても良い親しさを感じさせる。
が、冒頭からのシーンの積み重ねで、
観客の側は違和感を抱き始める。
三人の暮らしは、何か変なのだ。
『美咲』はオフィスで働き、同僚との飲み会にも参加する。
『優花』は大学で量子力学を専攻し、
『さくら』は水族館でアルバイトをしている。
目覚ましが鳴ると起き、朝食を共に食べ、
弁当を持って出かけ、夜にはガールズトークに花が咲く。
なのに、付いて回る不自然な空気は何だろう?
全体尺の二十分を過ぎた頃だろう、
驚愕の事実が提示され、それまでの不穏な感覚に得心が行く。
彼女たちには見えていても、
周囲の人々に三人は見えない存在なのだ。
十二年前のある悲しい事件が関係しているのだが、
それと判らせるまでの導線が途轍もなく巧い。
監督の『土井裕泰』と脚本の『坂元裕二』の職人芸で、
とりわけ後者は、今年公開の〔ファーストキス 1ST KISS〕に続き
不条理な世界観の魅せ方が抜群に長けている。
とは言え、片方には見えていて、
もう片方には見えていないのは、
現実の世界でも多そう。
小さくはタイトルにもなっている
「片思い」がまさにその典型例。
大きくは社会の中で見えない存在の人々で、
実際は多くいるだろう。
姿が見えないのと同様、
彼女たちの声も周囲には聞こえない(勿論、体感することも)。
幾つかの危機的なシチュエーションが描かれ、
自分たちが無力なことは分かっていても、
三人はなんとかしようと知恵を巡らせ動き続ける。
それを更に傍観している我々は、
忸怩たる思いでただ目を凝らすのみ。
なんと歯がゆいエピソードの積み重ねだろう。
終盤に向け、異なる次元に住む彼女たちを
この世界に引き戻す可能性が示唆される。
それには、現世で生きる人と
心を通わす必要があるのだと。
三人が幼い頃に所属していた合唱団で
ピアノを弾いていた『高杉(横浜流星)』は
『美咲』に何かと気を掛けてくれていた少年。
しかし、事件のあとは自分を責める気持ちから
心を閉ざしていた。
意を決した『美咲』が『高杉』に再び向き合うことで、
奇跡は起きる。
ラストシークエンスでの合唱は、
歌詞を読み込めばより思いが深くなる。
喪失からの再生が見事に編み込まれ、
シーンだけでも胸が熱くなるのに、
感動を増幅させてくれる。
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