「感覚に訴えてくる映画」片思い世界 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
感覚に訴えてくる映画
広瀬すず、杉咲花、清原果耶。こんな豪華なトリプル主演ってあるだろうか。あり得ない、と思ってたことがあり得ちゃった映画だ。
よく考えると、予告も含めて殆どどんな映画なのか分からない状況だったし、私自身どんな物語なのか全く知らない状態で観に行った。「片思い世界」っていうタイトルだし、みんながそれぞれ片思いしていて、それぞれの結果が描かれるのかなぁ?くらいの感じ。
映画の前半で明かされる、欠片も想像していない設定に、「意外とSF?」と思ったくらいだ。
だが、設定や物語はこの映画の主眼じゃない。この映画の最重要ミッションは「片思い」をどれだけ観る側の心に届けられるか?だ。
特に序盤は物語の設定を隠しながら、それでいて観る側を彼女たちの世界に引きずり込む難度の高いミッションが課せられていて、それを難なくやってのけられるのは主演三人の演技力によるところが大きいと思う。
そして中盤から後半は、二つの世界の隔絶を意識させながら、より強く「片思い」の心情が描かれていく。主演三人だけじゃなく、横浜流星と西田尚美、片思い相手の二人が秘めている心情も乗っかって、現実には何も起きていないんだけど、心の中に巻き起こる怒涛の嵐に放り込まれていく。
「泣いちゃうかもなぁ」なんて軽い気持ちでいたけれど、後半はメガネをかけ直す暇もないくらい泣いた。三日月で泣き、肉まんで泣き、合唱コンクールでとめどなく泣いた。
なんでだろう、合唱の最中涙が止まらなかった。
いなくなってしまった人だけど、大切な人だったからいつまでも心に残しておきたい。忘れてしまったら、本当にいなくなってしまう気がしたから。
でも、離れてしまった世界は元に戻らない。だから前に進まなきゃならない。
進まなきゃならないなら、前を向いて、背筋を伸ばして、そして楽しんでほしい。
最後の合唱は届かないはずの三人の気持ちが、確かに届いたような、そんな気持ちになったのかもしれない。
とにかく、広瀬すず、杉咲花、清原果耶の名演技を堪能し、涙する映画だった。感受性が試される映画でもあるし、すごく感覚的な映画とも思える。
感受性に自信がある人には是非観てもらいたい。ハンカチだけは忘れるな!