「世界で一番綺麗なゾンビ映画」片思い世界 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
世界で一番綺麗なゾンビ映画
1年前からずっと観たかった作品でしたが、撮影期間中に監督が交通事故に遭われた影響で公開が延期されていたそうです。それでも今回無事に封切りとなり、実に喜ばしい限りでした。
さて、何で観たかったのかと言えば、広瀬すず、杉咲花、清原果耶のトリプル主演という、クリンナップ全員大谷級のキャスティングの上、監督は土井裕泰、脚本は坂元裕二の「花束みたいな恋をした」コンビという、(ちょっと古いけど)V9時代の東京ジャイアンツばりの陣容だったから。そりゃあ観に行かずんばずびずばでしょう。
で、映画が始まると、最初は回想らしい少年少女合唱団の練習シーン。それが数カットを経て画面が現代に切り替わると、清原果耶演ずる阿澄さくらが、渋谷の人気スポットである宮下パーク沿いの明治通りの歩道を、原宿方面に歩いているではありませんか。ヒューマントラストシネマ渋谷で鑑賞した私としては、さっき自分が歩いた同じ歩道を果耶ちゃん(さくら)が歩いている訳で、そりゃあ興奮せざるを得ません。スタートして10分も経たないうちからハイテンションになった私ですが、ヒューマントラストシネマから原宿方面にちょっと北上し、明治通りを左折して数十メートル行ったところにさくらたち3人が住む家があった辺りから違和感が。
物語上自宅が”渋谷駅近く”と言ってる訳ではなく、その後は小田急線代々木上原駅の脇にある井の頭通りの高架下にあると思しきバス停が自宅最寄りのバス停という設定になっていました。ただいずれにしても、3人が住む庭付き一軒家は、都会のど真ん中に位置していて、ちょっと古い感じではあるもののかなり広く非常に立派で、時価5億円は下らないのではと思える豪邸な訳です。そんな豪邸に、若い女性が3人で暮らしているなんて、実に不思議というか不自然。先祖代々超大金持ちで、その遺産で暮らしているという体なら理解できますが、そんな感じでもなく、違和感しかありませんでした。
何せ1年待ってたくらいの作品なので、期待も大きかっただけに、それがこんな不自然な設定の物語だったとは、、、しかもバスの中などで人目を憚らず大声を出したりする3人の姿に、違和感はさらに増大するばかりでした。結果として、観る前から溜まっていた作品に対する正のベクトルが、一気に負のベクトルになり、暗澹たる気分になって見続けることになりました。
ところが、、、もう少し物語が進むと、何と3人は既に亡くなっていて、それでも魂魄この世に留まって、普通に成長しながら暮らしている、そして彼女たちには生きている人の姿は見えるけど、生きている人は彼女たちを見ることは出来ないという設定であることが明かされビックリ。なるほど本作は、世界で一番美しいゾンビ映画だったんだと知るに至りビックリ仰天。
この展開で、巨大な負のベクトルは再び180度転換し、巨大な正のベクトルに再変身したのでした。この時の爽快感たるや、快感以外の何物でもありませんでした。
その後、日本人科学者のノーベル賞受賞の際に聞いたことがあるカミオカンデの理論(といってもさっぱり分らんけど)が登場し、もしかしたら現世に戻れるかもという希望が出て来る。そして現世に戻ったかと思ったのも束の間、結局夢は実現しませんでした。
それでも片石優花(杉咲花)の母親(西田尚美)への思い、そして母親からは見えないけれども、母娘が交錯するシーンは絶品で、特に彼女が目を付けていたクッキーを母親が握りつつ、3人を殺した犯人に詰め寄って行ったことが分かった時は、完全に涙腺が崩壊しました。
また、大河ドラマ「べらぼう」で話題の横浜流星も登場。3人が殺された少年少女合唱団でピアノを弾いていた高杉典真の大人になった役柄。惨劇の際にコンビニに行っていたお陰で難を逃れたものの、その時の悲しい思いを引き摺ったまま大人になった典真。そんな彼に想いを寄せていたのは相良美咲(広瀬すず)。事件をきっかけにピアノを止めた典真が、美咲が殺される直前に書き上げた劇の台本を見て久々にピアノを弾くことを決心。そしてお互い異世界にいる2人でしたが、流星は気付かぬままに抱き合うことに。ここでも涙腺崩壊。
さらには典真のピアノ伴奏で現代の少年少女合唱団が歌う傍らで共に歌う3人の姿にも涙。
都合3回涙腺が崩壊した訳ですが、残念ながらさくら単独で泣くシーンはなく、とても残念でした。設定上、現世の思い人に対する思いが強ければ、現世に戻れるかもということになっていました。そして美咲は典真に、優花は母親に対する思いがあったのに対して、さくらは自分たちを殺した犯人の動機を知りたいという理由で、犯人に対する思いを持って現世に戻ろうとしていたのが、どうにも腑に落ちないところ。犯人の動機を知りたいという思いは、優花の母親も同様でその点も被っていたし、さくらにはもう少し別のストーリーを与えて欲しかったなと感じざるを得ませんでした。
エンドロールで松田龍平の名前があったので、はてどこに出ていたんだろうと思って調べたら、あの世から現世に生還した設定の男で、謎のラジオ放送のDJ役でした。声だけの出演に松田龍平を使うとは、何と豪華な!
あと、前述の通り、ヒューマントラストシネマ渋谷周辺や代々木上原駅周辺のほか、駒沢公園、恵比寿ガーデンプレイス、大手町よみうりホールなど、たまに行くところが撮影に使われていて、内容的に完全なファンタジー作品でありながら、非常に身近なお話に感じられたことも心躍る作品になっていたように思います。
そんな訳で、本作の評価は★4.6とします。
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