逃げきれた夢のレビュー・感想・評価
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50代という時代
光石研主演というのと、50代の男性の悲哀がテーマの一つのようで、観てみた。
この頃の男性って更年期になって若さの勢いはなくなってくるし、もぅ人生も一般寿命からしてあと20、30年とか見えてくるし、人生振り返りたくなる年頃。
ふと何かがきっかけで、自分の人生何だったんだろう、あのときああしていればとか、いやこれでよかったとか思うのは自然かなと。
最後に主人公が、後悔しないようにやることだ、と言い切りながら、後悔しても!とかあいまいなのは、結局、何やっても後悔するし、後悔しないし、その時々で変わってゆくもの。
そんな経験をしてきたからこそ、決められない年頃でもあるんですよ。
映画としては、ワンカットで長回しが多くて、沈黙もそのまま残して。バックミュージックもほぼないから、沈黙が効く。
事件やストーリーはほとんどない。人間、そのものを観察するような視線を感じる。
この映画には答えは求めてはいけないし、そんな期待もしないで、ただ、こんな風に自分の人生を愚直なまでに振り返ってる50代をみつめて共感できれば十分だ。
こんなひときっとたくさんいるはずだし、人生80年としたら、半分くらいを過ぎて、ふと立ち止まり、あのときのあのひとどうしてるんだろうって何十年経ってから思い起こす。
人生100年時代、人間に記憶がある限り、全部忘れて生きていけない。立ち止まってしまう時間が来る。そんなときどんな時間が経っていたとして、会いたいって気持ち。それを受け止めるひとたちが多くいてほしい。
そんな時代ですよね。
心に響く
全体的にここぞという盛り上がりはないが、台詞の1つ1つがとても心に響きました。人は誰もが身勝手、確かにその通りだなと思いました。そして役者さん皆演技が凄くて芝居だけでも心動きました。個人的には最後の台詞で泣けました。
教頭として、父として、男として
「男とは…」カッコつけたい生き物である。
捨て切れない、捨てられない男の見苦しいプライドが病気という一つのきっかけを通して露呈されていく姿をリアルに感じた。
少年時代の自由さにいつまでも憧れ、武勇伝となっている。教師として向き合おうとする姿と経験から分かっている子どもの姿。しかし、本質まで突っ込んでいく気力はもう見えない。
当たり障りもない「都合のいい人」を演じるようにいつのまにかなってしまったのだろうか。
授業中の見回りで聞こえる夏目漱石の「こころ」の一節。これから周平が追い詰められていく無意識の描写に聞こえる。
妻との関係は冷えている。娘との関係はきっと自分が勝手に冷えていると思い込んでいる。
自分自身にきっと自信がないのだろう。教師としても父としても自分を出さずにここまできたのだろう。
弱さを隠してきた蓄積が今のリアクションにつながる。
妻へのプロポーズの言葉や娘の喜んだ幼少期は鮮明に覚えているのに。
無意識の苦しさが吐き出されている。
溢れ出した苦しさは旧友に会うことで紛らわそうとする。でも、結局出せるのは昔の武勇伝。そして旧友には見透かされる小さなプライド。
卒業生には教師であった姿と身内には見せられない小さなプライドを披露する。旧友にも家族にも見せられない小さな小さなカッコつけだ。それも卒業生に見透かされ、最後、やっと等身大の嘘のない素直な言葉で終わりを告げる。
人間には立場や場所によって顔が違う。どれも本当の自分なのにどれも少しずつ違和感がある。その違和感の積み重ねがバレてしまった。見つめざるを得なくなってしまった。
自分はどうだろうか。子供には、妻にはどこまで見せていいのだろうか。見せなくてはならないのだろうか。明日も同じように責任を背負って生きていく。その中での違和感はどうしたら良いのか。
自分の残りの人生を考えさせられるお話しでした。
次の作品にも期待しています。
中洲とギリシャ
「波紋」を観て、残念なおとーさん役を演じて光石研の右に出る俳優はいないのではないかと思ったが、本作で確信した。
それにしても、見事なまでに(表面上は)何も起こらず淡々と続く情景描写と台詞の余白の雄弁さが、波が打ち寄せるようなラストシーンの余韻のための序奏だったとは。いやもう、恐れ入りました。
これは結構な作品だ
心を揺さぶられる映画――。
最初から最後まで、ドンパチ盛り上げようとするような、気が抜けない映画ではない。
冒頭から物語中盤、後半にかけても、退屈なくらい何も起きない坦々とした展開、描写で眠くなるか、もう席を立とうか、と思わせる。それでいて、終盤に入るとどんどん引き込まれ、最後には大きな感動が押し寄せる…。
そういう作品がよい映画である。
本作もその一本と言ってもいいだろう。
中盤あたりまで、地方の定時制高校で教頭をやっている定年間近の男の日常を光石研が淡々と演じる。
親の介護や妻、娘との関係。学校で生徒との関係などなどを描くが、興味を引くような内容はほとんどない。
光石もひたすら、小さな男を演じ続ける。
定年間近で、出世とは縁遠く、まじめに働き続けた。
それでいて、家族や職場から尊敬されたり、一目置かれるような存在でもない。
自分の人生はなんだったか。
多くの中高年男性が感じる、一種の悲哀がスクリーンから伝わる。
これって、僕の心境、生活を映しているのか、と見ながら思った。
最後も劇的なものがあるわけではないが、かつての教え子の女生徒との会話から感じるものが、僕の心に津波のように押し寄せたのだ。
封切りまでちょっと間がある。
コロナ禍以降は試写室も遠かったのだが、昼間に時間が空いたので、予備知識まったくなし。光石主演の映画、という知識しかないまま、久しぶりに試写に行った。
そこでよい作品に巡り合えた。
監督はこれが商業映画デビュー作というのはちょっとした驚きだ。
21世紀の小津がここにいた、と下手なレビューが書きそうだ。
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