「症状がリアルさに欠けるのが残念」逃げきれた夢 るなさんの映画レビュー(感想・評価)
症状がリアルさに欠けるのが残念
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物語は、定時制高校の教頭が元教え子が働く定食屋で会計を忘れる場面から始まる。この出来事を機に、彼は妻・彰子や娘・由真、旧友・石田啓司との関係を見つめ直そうとするのだが、会計をうっかりし忘れるのは誰でもあり得る話で特別に異常なことではない。
これ以外でも主人公の症状が映像上で明確に表現されておらず、家族との会話が噛み合わない場面はあるが、認知症特有の症状や進行の描写に見えない。
親族や身近に認知症の者がいれば分かる筈だが、たとえ周りにいなくても調べれば分かることで、それが作品に反映されていないのが致命的。認知症は周囲の人間が最初に気付くのが普通。まず家族、その後仕事関係者。ただの物忘れやチグハグな言動は認知症の症状ではない。通い慣れた道を忘れたり、重要な用件を忘れる、何度も同じ話を繰り返す、などの筈。この監督は認知症の事をまるで理解していないか勘違いしてるとしか思えず残念。
一方で、光石研や松重豊らの演技は評価される。方言が二人共ネイティブなのも良い。自然体でありながら深みのある演技は、人物の複雑な心情を見事に表現しており、強い印象を与えてくれる。 ただ脚本が認知症を誤解しているせいで台詞のやり取りが不自然な印象を受け隔靴掻痒というか気持ち悪さが最後まで続いた。
全体として、『逃げきれた夢』は、人生の転機に立つ一人の男性の姿を静かに描き出した作品ではある。認知症の描写に関してリアリティの不足を感じる部分が多々あるが、光石研の卓越した演技と、日常の中の人間関係の機微を丁寧に描いたストーリーは、一部の観客には共感と感動を与えるかも知れない。
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