劇場公開日 2023年6月9日

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「逃げきれた?逃げきれなかった?」逃げきれた夢 マツドンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0逃げきれた?逃げきれなかった?

2024年2月14日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

よく分からないのは、『逃げきれた夢』という題名。
誰が何から逃げたのか。夢はどこにあったのか。そもそも夢って、未来に望みを描く夢のこと?それとも寝ていて見る夢のこと?
そういえば、「父親から逃げる・・・」ていうセリフがあった。「夢みたんよ。父親の夢・・・。」もあった。それ以外に、『逃げる』も『夢』も多分、見当たらない。
もしかしたら、この映画の軸は主人公、末永周平とその父親との関係にあるのではないだろうか。

組み立ててみよう。
周平の子供時代は父子家庭。権威的で怖かった父親と離れたくて家を出て、でもその父は今、認知症で施設に入っている。
で、自分にも認知症の兆候が見られる。家族との関係はといえば、奥さんや娘との間に壁ができ、すっかり嫌われている。娘には見せてこなかった一面を見せて、関係を修復しようと試みるも気持ち悪がられるだけ。奥さんとの関係はとうに終わっている。
病、家族との関係。結局、自分も父親と同じ道を歩んでいたのではないか。父親を嫌って逃げだしたはずが、父親の後を追っていたことになる。

周平は、父にまつわる実体験を夢で見た。こわかったはずの父親は、なぜか授業参観で息子の担任のまねをして、友達たちを笑わせていた。実はひょうきんな一面をもっていたにもかかわらず、子どもの前では見せてこなかったのだろう。
それって、給料を運んでくる自分以外を見せられなかった、そして他の一面を見せれば家族から「こんな人だったっけ。死ぬの?」と言われてしまう、そんな周平自身と同じじゃないのか。

父から逃げるために家を出て、ひょうきんな姿の父の夢を見て、父と同じように家族にうとまれ、父と同じように認知症で記憶を失おうとしている。これって、父親から逃げきれなかった自分、なりたくなかった自分じゃないんだろうか。逃げようとしても、齢をとるほどに父に似てきてしまう自分に気付かされる、そういうものだろう。

「後悔のないように好きに生きていけばいい、後悔したっていいか」そう言える相手は、家族ではなく他人。なんでか、家族って難しい。一番大切な人たちのはずが、一番大切な思いを届けられない。
だから、哀しみと諦めから定年後を始める。好かれようとせず、きれいごとで済ませず。後悔しないよう好きに生きて。それでも、後悔するようなことになったとして、それをも受け入れよう。元教え子に伝えた言葉は、自分へのエールなのだろう。

だとすれば、まだ終わっていない。逃げきることを夢見て、逃げ続けてきて、逃げきれなかったけれど、新たに、まだ逃げよう。結論はまだ出ていない。そんな周平の決意。

『逃げきれた夢』にピッタリの解釈、とは言えないけれど、う~ん大体そんなこと、かな。私自身、周平にけっこう近い境遇で、彼の状況を笑いながら共感しきり。楽しく見させてもらいました。

マツドン