「今こそ僕も哲学を始めなければ」ぼくたちの哲学教室 はんぱかさんの映画レビュー(感想・評価)
今こそ僕も哲学を始めなければ
このドキュメンタリーの舞台は、北アイルランド ベルファストの Holy Cross Boys' Primary School。この地域は、5 歳から男女別学なんだそうで、同じ地域に同じ名前の girls' school もちょっとだけ(でも重要な場面で)出て来ます。主人公は、男子小学校の校長、ケヴィンです。彼は 5 歳児クラスを含む全学年に哲学を教えています。
5 歳と哲学って、繋がりますか? 僕は、この映画を観るまで、不思議でした。でも、納得しました。この映画を観れば、あなたも納得できます。
映画を観て気付いたんですが、不安や怒りを言葉で表すと、それらの感情を引き起こした物事から距離を置いて見られます。客観的に自分や周囲を理解する上で、素直でしがらみのない子どもこそ、哲学の力が効果を持ちやすいのだと感じました。
彼の地は、政治的に難しい所です。映画『ベルファスト』では、半世紀前の武力闘争下、故郷を離れる幼い主人公一家が監督の自伝として描かれました。現在でも、プロテスタントとカトリックを隔てる「平和の壁」が残り、双方が勢力を拡大しようと若者をリクルートし、小競り合いが起きているそうです。そして、暴力の記憶は親から子に伝わります。そうした記憶の連鎖を哲学の力で止めようとしているのがケヴィン先生なのです。ここに希望があります。
北アイルランドの暴力はまだ終わっていませんでした。世界も僕も、2016 年の Brexit で思い出しました。
一方、現代の日本には、武装蜂起はありません。これが続いてくれることを願っていますが、社会に危うさを感じます。去年 2022 年に安倍晋三が殺害される前から、大阪・北新地の心療内科や京都アニメーションの火災とか津久井やまゆり園の連続殺人がありました。先週、自衛隊では訓練中に上官を射殺する者も現れました。時間を掛けて壊れた社会は、直すのにも時間が掛かりそうです。哲学は、その時の有力な手段になりそうです。社会がここで踏み止まれるように、僕も哲学を始めなければと思わされました。