「教育は生死を分けるライフスキルだ。」ぼくたちの哲学教室 アツサミーさんの映画レビュー(感想・評価)
教育は生死を分けるライフスキルだ。
私はこの春まで長らく現場の教員を務めた。最後はかなりぐだぐだになり、打ちのめされて消えて行った。教育現場は理想と現実の狭間で、理不尽と戦う。
ケヴィン先生も私も目指していた事は同じだ。子どもたちに自分の人生を歩み幸せになってほしい。地域社会の人財としてその地域の課題と向き合い次代を担って欲しい。
哲学は私の中では物理学と似ていて、『人間や物事の根本原理を探求をする学問』だ。
『なぜそうなのか』と問い続けるケヴィン先生の授業は確かに哲学教室だと思う。
その上で、ケヴィン先生は子どもたちに考えさせ、本当はどうしたかったのか、どうすべきだったのかと、善悪の判断や人間社会での正しいあり方を思索させる。待つ時間を保証し、答えは決して言わない。
子どもたちはトライ&エラーを繰り返しながらより良い振る舞い方を学んでいく。
ホワイトボードを使って自己と状況を客観視させたり、アンガーコントロールに指の又をなぞらさせたり、そういった手法は私と変わらない。
先日、娘とダイバシティ東京に行って遊んで来た。多様性の大切さが言われて久しいが、同調圧力が強いこの国に違う価値観の相手と妥協点を探る、そうした対話の文化があるとはとても思えない。我が国の地理的環境は天然の壁なのだ…
価値観の相違に基づく対立、憎しみや殺し合いの負の連鎖はどーしたら断ち切れるのか?
歴史、文化、宗教に根ざす価値観の違いを乗越えてお互いを尊重し、協調した行動が取れるようにするにはどーしたら良いのか。それは普遍的、かつ、実に今日的なテーマだと思う。
『壁』は対立と分断、異なる価値観の排除、内側への締付けの象徴だ。ベルファストの平和の壁、ガザ地区、メキシコ国境、ベルリンの壁。
分割統治は古代ローマ帝国からの鉄則であり、分断を煽り、ポピュリズムで権力を掴むには異なる価値観を持つものを生贄にするのが手っ取り早い。幼い子どもたちに思想教育を施し、堅固な心の壁を築かせる。そうすると暴力は連鎖し狂気が支配する。
AI やバーチャルな世界が日常的になりつつある今だからこそ、物事の真偽を見抜く『哲学』や『批判的思考』が必須なのだ。
映画のラスト近く、ケヴィン先生が授業をしている時、1人でノートに絵を描いている子どもが居た。その子の活動を認め、排除したり参加を強要したりしない寛容さが印象的だった。
また、コロナ禍を凌ぎ、ここを卒業した生徒が中学校への入学式の前に立ち寄り、僕はホーリークロスの出身なんだと胸を張って言う姿が眩しかった。
Quoted from Jaremaga.
Many people think that philosophy is difficult to understand. It is different from everyday life, and it isn’t for children. I saw a documentary called “YoungPlato” (“bokutachi no tetsugaku kyoshitsu”) last Friday that changed my mind. It’s about a boys’ school in Belfast, Northern Ireland. The headmaster (the head of the school) uses ideas from philosophy to help 9- and 10-year-old boys think for themselves. Belfast is a city with a lot of problems, and the parents of these boys lived through times of great violence. The headmaster wants the boys to learn to live without using violence. He teaches them to think before acting and to listen to others. Ideas from philosophy don’t have to be difficult, and they can help all of us in our everyday lives.
そう言って頂けるだけでとてもありがたい事です。ケヴィン先生には及ばずとも志は同じでした。が、現実は厳しく心を病んで辞めました。だから、あなた様のメッセージが嬉しいです。
あなた様のレビューに大変感銘を受けました。
教育にここまで真摯に向き合って考えておられる貴方のような先生に教えてもらえて、生徒たちは幸せだったと思います。(どうか理不尽との闘いで消耗した心をお休めください。)
>ここを卒業した生徒が中学校への入学式の前に立ち寄り、僕はホーリ>ークロスの出身なんだと胸を張って言う姿が眩しかった。
顔が誇らしげでしたね!ほんといいシーンでした!