アラーニェの虫籠 リファイン版のレビュー・感想・評価
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80〜90年代OVAカルチャーに捧ぐ
80〜90年代のゴア系OVAブームのノリを3DCGで再奏した中編作品。
しかしながら大前提としてゴア系OVAの真骨頂は暗澹たる物語とセル画のダーティな色彩のマリアージュにある。『メガゾーン23』や『ジェノサイバー 虚界の魔獣』が一部でカルト的な人気を博したのは、首の千切れるシーンで神経系や毛細血管に至るまでが細かく描き込まれていたからだ。
したがって、アナログならではの迫力やきめ細やかさが一切合切欠落した3DCGという土俵でただただ律儀に再奏されただけの本作が往年の手書きゴア系OVAに能うかというと首肯しかねる。
『GHOST IN THE SHELL』『serial experiments lain』よろしく謎めいて衒学的な雰囲気は確かに興味をそそられるし、化け物の造形もなかなかにおぞましい(それこそ中村隆太郎っぽさがある)のだが、やっぱりそういうのも画面のテクスチャの如何によって印象が大きく変わってしまう。3DCGの嘘臭い立体感とこういう作風はそもそも折り合いが悪い。
フレームレートを意図的に落とすことでローファイな画面を再現しようという努力はわかるものの、むしろいたずらに安っぽさに拍車をかけるだけの結果となってしまっている。
物語に関しても、救済をちらつかせたうえでの世界滅亡という展開は80〜90年代の露悪を基調としたアングラオタクカルチャーにおいて頻繁にみられたものであり、目新しさはない。ただ、見方を変えれば80〜90年代OVAカルチャーへの憧れを最後の最後まで貫徹したわけであり、その気概というか情熱には敬意を表したい。
「アニメでホラーいい」
今年82本目。
2018年8月に一度見てある程度覚えていましたが2度目でこんなに面白いんですね。今回見た時アニメでホラーってほとんど記憶にない位新鮮でした。花澤香菜さんが出ると作品が本当にいい。今作品は2018年、22回カナダ・ファンタジア国際映画祭・今敏賞にノミネートされて、その年のグランプリ今敏賞は「ペンギン・ハイウェイ」が獲りましたが、それに負けない位良い作品でした。
巨大集合住宅×少女×蟲のホラー・アニメ。すべてを個人制作で作り上げた大労作!
坂本サク監督の「個人制作」による74分のホラーアニメ。
封切り当時は存在自体まったく気づいておらず、今回、前日譚にあたる新作『アムリタの饗宴』が公開されるにあたって、併映で観た。
不気味な巨大集合住宅を舞台に、そこに引っ越してきた女子大生が経験する恐怖を描き出す。
登場人物は限られており、髪色の薄い長髪ウェーブのヒロインと、彼女が夕暮れ時に出逢った黒髪短髪の少女を中心に、三者三様のイケメンが絡んでくる。
ジャンルとしては、オカルトホラーというか、「蟲」ホラーというか。
心に侵食し、身体をむしばむ「心霊蟲」という怪異がメインだ。
ノリでいうと、諸星大二郎の諸作や、星野之宣の『宗像教授』シリーズ、西尾維新の『化物語』シリーズあたりに近い感じだが、これらの作家群がおおむね「理詰め」で怪異の「謎」を調伏する本格ミステリ寄りのスタンスであるのに対して、坂本サクの「謎」は解けたか解けないかもわからないまま、黄昏のなかに消えてゆく。
どちらかというと、デイヴィッド・リンチや一部のサイバーパンクに近いようなテイストとでもいうべきか。一見論理を通しているように見えて、その実、何が本当で何が妄想かも判別できない、不条理と曖昧さのなかに観客は取り残される。
終盤、この作品はいくつかの「どんでん」を用意している。
僕自身は、設定だけ見て勝手に『シックス・センス』ネタじゃないのかと思い込んで観始めたのだが(笑)、予想に反して、別の「ええ!そうだったの??」をいくつかかまされるはめに。とはいえ、それが「本当」かどうかもよくわからないままに映画が終わってしまうので、正直かなりのモヤモヤと残尿感は残った。
あえて説明不足にとどめて「もやっ」とさせたいのか、監督の考えている「真相」が個性的すぎてこちらの理解がおっつかないのか、あるいはその両方なのだが、有り体にいって「無駄にややこしい」「難解さのための難解さ」は感じないでもない。
まあでもあの「オチ」だと、この映画の細部に関して、あまり理屈ばって観ても仕方ない気はする(『アイデンティティー』とか『シャッターアイランド』と一緒といったら暴論だけど)。たとえば、「なんで今更、報告書やら昔のフィルム・リールがこんなところに出て来るんだ?」とか観ているときは思ったんだけど、そういうことにこだわってひっかかっててもあんまり意味がないということだ。
「少女」と「蟲」の取り合わせでいうと、ちょっと懐かしいラノベだが『ムシウタ』を思い出す。最近だと、同じ自主制作あがりのたつきの『ケムリクサ』も、少女たちが虫と戦う話だった。そういや、今回主演を務めている花澤香菜は、同じ「人間が虫化する」ネタの『虫籠のカガステル』でもヒロインやってたな。
そもそも「体内に虫」が棲みつく気持ち悪さは、デイヴィッド・クローネンバーグの『シーバーズ』やロバート・ロドリゲスの『パラサイト』など、昔からよくあるネタで、思い出せないだけで結構その手のものは観ている気がする。あと虫に操られる系の小説だと坂東眞砂子の『蟲』とか、貴志祐介の『天使の囀り』とか。
そういや、小学校高学年のとき、読み聞かせの大好きな50代の担任女性教師が、蝿蛆症の出てくる反戦童話を朗読し、皮膚を食い破って出てくるウジを吸い出しては吐き捨ててみたいなところでクラスの女子が火が付いたように泣き叫んでいたのをよく覚えている。あれはトラウマ授業だった……虫がというより、女子の過剰反応とヒステリーの伝播がマジで怖かったのだ。
ただ、結局のところこの物語は、ヒロインがどうだ、虫がどうだという以上に、禍々しい瘴気を放つ「巨大集合住宅」自体が、真の主人公であるような気もする。
『仄暗い水の底から』『残穢』『クロユリ団地』『N号棟』と、「呪われたマンション/団地」を舞台にしたJホラーは枚挙にいとまがない。海外だと「お化け屋敷」(ホーンテッド・ハウス)や「恐怖の一軒家」(オールド・ダーク・ハウス)が舞台となることが多いが、日本だと残留思念の渦巻く「集合住宅」の一室が呪われがちなのは面白いところだ。
本作の場合、マンションというより、その前にあった某研究所に問題が大有りでこんなことになっているらしいが、とにかく夕暮れ時に佇むマンションの不気味さと圧迫感はただごとではない。この異様なモダン・ゴチック様式のようなマンションの異形を愛でるだけでも、本作を鑑賞する価値はあると思う。
あと、マンションの上下構造を用いた「モンスターの襲撃→墜落→死んでない」の展開や、狭い通路やダクトと間仕切りの扉の開閉を用いた移動アクションが多用されているのも特徴で、このへん、坂本サクと同じく個人制作ですべてをつくりあげてきた堀貴秀のストップモーションアニメ『JUNK HEAD』とやっていることがそっくりなのは面白い。
なるべく手数を減らすための省エネ設定が「高層構造をもつ建築内での追っかけと墜落」および、なんとなく似た感じのクリーチャー造形を生むのか、あるいは「一人でこせこせ作業して長篇を作りだしてしまうような才能」は似たような感性を共有しているのか。なかなか興味深いところだ。
作画としては、宣伝文句で「超絶絵師」とか煽っているが、正直そんな感じはあんまりしない。というか、3Dで手作業の労力をはぶいているところがかなりあるうえ、走っている動画や顔の回し方などはかなり不自然な気がする。「リファイン版」であってもなお、あちこちで個人制作の限界を感じさせる部分は散見され、少なくとも「映画版のアニメ」のクオリティを期待すると大きく肩透かしを食らう。
声優さんはザーさんくらいしか知ってる人はいないかな、と思ったら、結構重要な役で福井裕佳梨が出ていてビビった。懐かしすぎるぜ、ゆかりん。
個人的には、こういう個人制作の試みは心から応援したいところですが、僕に合っていたかといわれると、あんまり得意な作品ではなかったかと。
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