「猛進するマット・デイモンと突進するベン・アフレックが挑んだ奇跡のコラボ。」AIR エア 高橋直樹さんの映画レビュー(感想・評価)
猛進するマット・デイモンと突進するベン・アフレックが挑んだ奇跡のコラボ。
がむしゃらさを演じさせたらマット・デイモンの右に出る者はいない。無骨だがガッツだけは人一倍、仲間の大切さもよく理解しているが、時に一匹狼となってでも目標に向かって一心に突き進む。その猛進力は威嚇対象を定めたときの野性の猪のようだ。
『AIR/エア』で特筆に値するのは、マット・デイモンが持つ牽引力を誰よりも信じ、主役に据えて演出に向き合ったベン・アフレックの慧眼と結末に向けての突進力である。
1984年というスポーツ業界史を変える出来事が起こったエピックイヤーを、音楽、ファッション、トレンドなど多彩なフッテージを小刻みにつなぎ合わせて時代の気分(エア)を醸し出す。観客を一気に当時へと誘い込むと粗い映像でマット・デイモン演じるソニーを登場させる。彼のルーティンに追った先では、所属する組織と人間関係、彼に託された使命を一気に開いてみせる。Nikeの社是を巧みに引用しながら、“ただやるだけ”=“JUST DO IT”の精神で、マイケル・ジョーダンという不世出の天才とのコラボとなった“エア・ジョーダン”誕生までの軌跡を一気に見せる。
優れた脚本を手にして描くべきことが定まっている監督のジャッジは適切だ。例えば、セブンイレブンで不健康な青色のスムージーがカップに注がれる絵を一コマ撮ることで、この店を訪れている男=ソニーの不摂生な生活を瞬時に伝える。迷いは一切なし。何故なら、語るべきエピソードは山積していて、余計なことに目を向けている暇はないからだ。だからテンポを損なわない省略の技術が生きてくる。この演出は、ほんの少しの描写でも理解してもらえるという観客への信頼に裏打ちされている。
描かれるべきことに対して猛進する演技で挑んだマット・デイモンをがむしゃらに走るフォードの大衆車とするなら、尻軽感が満載のNikeのトップを演じ、描くべきことに対して的確な演出センスで臨んだベン・アフレックの監督としての突進力は、劇中にも登場する17回も塗装を重ねてパープルトーンとなったポルシェ。ふたりが両輪となって物語をグイグイと牽引する様は、まさに痛快そのもの!
この映画にはサプライズが満ちている。これ以上のことは語るべきではないだろう。是非、劇場で!