「面白かったのですが‥」AIR エア komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
面白かったのですが‥
(完全ネタバレですので鑑賞後にお読み下さい)
映画を見た後の感想は面白かったなとは思われました。
ただ一方で食い足りなさも感じました。
その理由は、以下の3点に問題あったと思われました。
1点目の問題は、この映画『AIR エア』は、鑑賞前に期待していたナイキが今のように大きな企業になったサクセスストーリー+そこにマイケル・ジョーダン選手が絡む映画に、そこまでなっていなかった点です。
もちろんその期待は半分は描かれていたのですが、この映画『AIR エア』は、ナイキが今のような大企業になる話というより、マイケル・ジョーダン選手といかに契約を取るかという鑑賞前の期待より遥かに小さな話になっていたと思われます。
さらに、マイケル・ジョーダン選手とナイキとの関わりを描くというよりも、ナイキのバスケシューズ担当の主人公ソニー・ヴァッカ(マット・デイモンさん)と、マイケル・ジョーダン選手の母親であるデロリス・ジョーダン(ビオラ・デイビスさん)との関係の描写が中心のストーリーになっていました。
つまり、マイケル・ジョーダン選手は映画の中ではほとんど登場せず劇中では顔も映らず、マイケル・ジョーダン選手の映像はほぼ現実の過去映像に終始していました。
2点目の問題は、主人公のソニー・ヴァッカがマイケル・ジョーダン選手との契約を取れなければクビになるという描写にリアリティを感じなかったところです。
主人公のソニー・ヴァッカと、ナイキのCEOで創業者のフィル・ナイト(ベン・アフレックさん)との関係性を見ていると、契約を取れなければクビになる話は映画を盛り上げるための演出に感じ、とてもリアリティがあるとは思えませんでした。
3点目の問題は、主人公ソニー・ヴァッカもマイケル・ジョーダン選手の母デロリス・ジョーダンも、互いの信念がほぼ揺らぐことがないところにあるように感じました。
もちろん主人公ソニー・ヴァッカも母デロリス・ジョーダンも、互いに信念が揺らがないというのは感動的で映画にとって重要な柱であるとは思われます。
しかし互いの信念の揺るがなさは、逆に映画のドラマ性としては単純化されているように感じました。
映画のドラマ性としては、互いに押し込まれたり逡巡したりする揺らぎが必要になって来ると思われます。
しかしソニー・ヴァッカもデロリス・ジョーダンも、互いの信念が揺るがない場面がほとんどであったので、逆にドラマ性は薄まっていたと思われます。
唯一といっていい主人公ソニー・ヴァッカの主張の揺らぎは、最後の電話での交渉の場面での、シューズの売り上げの何割かをマイケル・ジョーダン選手に支払うという条件提示が母デロリス・ジョーダンからされた時に、それは出来ないと抵抗するところです。
しかし、それまでのソニー・ヴァッカの信念がほぼ揺るがなかったことから、この最後の交渉場面での揺らぎは映画を盛り上げる作為に思われてしまいました。
(案の定、CEOフィル・ナイトのすぐさまの受け入れ決断により契約は成立します。)
この映画は
1.ナイキの企業サクセスという大きなスケールの話でなかった、マイケル・ジョーダン選手の劇中描写も実際映像で済ませていた
2.主人公ソニー・ヴァッカが契約が取れなければクビになるという話にリアリティを感じられなかった
3.主人公ソニー・ヴァッカと(マイケル・ジョーダン選手の母の)デロリス・ジョーダンの信念の揺るがなさは感動との引き換えにドラマ性を単純にさせた
の3点によって、個人的には残念ながら傑作にはなり得てないような感想を持ちました。
ただ、ナイキのライバル会社の(後にナイキが買収したコンバースはともかく)決して良く描いてないアディダスを、ロゴ含めてそのまま描けるハリウッドの底力はさすがだと改めて思われました。
日本映画が、実際の企業の社名や商品や実在の人物を否定的な描写を含めてそのまま描ける日は来るのでしょうか。
とはいえ、様々な問題を個人的には感じましたが、それを差し引いても面白くは見ることは出来ました。