碁盤斬りのレビュー・感想・評価
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かつて談志が「時代に合わない」と評した落語を令和エンタメにチューニング
落語を原案にしているようだが、その内容を知らなかったので、序盤のメイン描写である格之進と源兵衛の関係の変化から楽しんで観ることができた。
源兵衛の胡散臭さを漂わせる登場シーンから一転、格之進とほっこりするような囲碁友達になり、この2人の関係と、江戸の四季折々の街並みや行事風俗が中盤までじっくりと描かれる。リベンジエンターテインメントのはずだが、ここまではむしろ物語もビジュアルも癒しの雰囲気だ。
しかし、格之進の過去の因縁が明らかになった時点からにわかに緊張感が増す。彼は、宿敵柴田兵庫の追跡と消えた50両問題という2つの案件と対峙することになる。
草彅剛は、表情が上手い。正直台詞回しには独特の癖を感じることが多いのだが、ここぞという時に表情で役の気持ちを全て語るような瞬間があり、つい目を奪われる。おだやかな場面での静かな表情と、復讐に心を燃やす厳しい顔つきのコントラストが素晴らしい。
仇の柴田がいる碁会所で、長兵衛(市村正親)に表情で気持ちを伝える場面は白眉。
斎藤工が敵役というのは珍しい気がしたが、格之進に濡れ衣を着せたり、その罪をだしにして彼の妻を手籠めにするなどした卑怯な武士を意外と違和感なく演じていた。ただ、格之進の内部告発で路頭に迷った当事者家族のために探幽の掛け軸を売った(とかいいつつ売ってなかった)という設定で、悪役としての詰めが甘くなってしまった気もした。
個人的には、時代劇で主人公に斬られる悪役は、死んで心置きなくせいせい出来るくらい根っからの悪人である方が好み。それに、土壇場で綺麗事を言われても、でもあんた格之進の奥さんをだまして手籠めにしたよね、と思ってしまう。
50両問題の方は、結果的にはそんな原因で……と膝から崩れ落ちたくなるような顛末だが、徳次郎(音尾琢真)をもうちょっとこらしめてほしかった(笑)。
自分が格之進を疑ってるのに、上司の源兵衛に相談もせず若い弥吉(中川大志)をそそのかして格之進のところに聞きに行かせてさあ……弥吉も弥吉で、格之進が返金してきたからむしろ疑ったのかも知れないけど、無断で大将首まで請け合うってどうなのよ。万屋のホウ・レン・ソウはどうなってるんですか。
そんなツッコミ所はあるものの、全体的なクオリティには安心感があり各キャストの見どころも多い作品だった。終盤、兵庫と囲碁で勝負って殺陣はないの?と思ったらちゃんと殺陣もあって満足。きちんと作られた時代劇を見たという手応えがあった。
ろくでなし男の演技が上手すぎる印象が強かった奥野瑛太が格之進に寄り添う実直な左門を演じているのが新鮮で、いい役者さんだなあと思った。
長屋のシーンに出演した落語家の立川談慶が、本作についてプレジデントオンラインに寄せた記事を読んだ。
原案である人情噺「柳田格之進」を彼の師匠の立川談志は「今の時代に合わない」と言い切り、口演しなかったそうだ。
落語の方の物語には柴田兵庫との因縁に関する部分はなく、生真面目過ぎる性格が災いし主家から放逐されたという設定のみ(演者によるアレンジで細部が変わる場合はある。以下同様)。だから兵庫に感化され掛け軸をもらって流浪の身になるというラストもなく、碁盤を斬り源兵衛たちを許したところで終わる。
源兵衛との関係と50両に関するくだり、誤解が解け碁盤を斬るまでの大筋は落語でもほぼ同じ。弥吉と徳次郎のポジションには徳兵衛という番頭が登場し、この番頭が格之進を疑い、自分で柳田宅に50両について問いに行く。お絹は自ら吉原に身売りし、50両が見つかったら源兵衛たちを斬るよう彼女が格之進に請う。格之進は最終的に主家への帰参が叶う。そんな違いがある。
確かに、武士のメンツの重要性が娘の操や源兵衛たちの命に匹敵するかのような話は、談志の言う通り現代の感覚にはそぐわない気がする。
そこで白石和彌監督は現代の観客が受け入れやすいようアレンジをしたということなのだろうが、その線引きが絶妙だった。
女性の描写に関しては、まず話の主軸を妻の仇討ちに変え、お絹を穢さないようにする。そしてお庚の存在が効いている。彼女が見せる裁量によって落着するラストは、この物語を現代のジェンダー観で見ても受け入れやすいものにしているし、人情噺に自然に馴染む終わり方だ。
一方で、お絹は仇討ちに旅立つ格之進を「しっかり本懐を遂げてください」と潔く送り出すし、頼み事をされても余計な詮索はせず、吉原で泣いたりしない。格之進は源兵衛たちを、ぎりぎりまで本気で斬ろうとする。当時の武士や女たちの矜持を感じることができた。簡単なことのようだが、江戸や明治の人間に現代人でなければ言わないような台詞を安直に言わせる映画やドラマが多すぎるのだ。
物語の構造をアレンジしつつ、落語「柳田格之進」に息づく当時の人々の価値観も大切に描いた白石監督のバランス感覚が光る作品。
囲碁の面白さを十分には伝えてくれなくて残念。適役の斎藤工が光っていた
白石和彌 監督による2024年製作(129分/G)日本映画。配給:キノフィルムズ
劇場公開日:2024年5月17日
脚本の加藤正人氏の趣味が囲碁ということでか、かなり囲碁の場面が多くてビックリ。昔、
囲碁に熱中した時もあったが、登場してくる局面の理解は出来ず、その解説的なものも乏し
く、その点では不満を感じてしまった。
敵石を召し取って生き残ったと思ったら、下から跳ねられて殺されてしまう『石の下』手筋が2回登場してたことを、プロ棋士の解説YouTubeでようやく理解できた。
草彅剛演ずる主人公柳田格之進の設定も寡黙すぎて、思っていることが掴めず、脚本に不満を感じた。クライマックスの中川大志と國村隼の代わりに碁盤を斬った理由も、良く分からなかった。武士のプライドがあるとしても、そこまでのことを二人の商人がしたとも思えなかったから。まあ、前半と打って変わった様な草彅剛の過激な復讐劇には、魅力は感じたが。
敵役の柴田兵庫を演じた斎藤工には、やはり惹かれるものを感じた。囲碁の戦いで敗戦模様に陥り、突如切り掛かる俊敏さが何ともカッコ良かった。
監督白石和彌、脚本加藤正人、製作総指揮木下直哉、エグゼクティブプロデューサー
飯島三智 、武部由実子、プロデューサー赤城聡 、谷川由希子、ラインプロデューサー
鈴木嘉弘、協力プロデューサー根津勝、撮影福本淳、照明市川徳充、録音浦田和治、美術監督今村力、美術松崎宙人、装飾三木雅彦 、上田耕治、衣装大塚満、メイク床山、山下みどり
編集加藤ひとみ、音楽阿部海太郎、音響効果柴崎憲治、VFXスーパーバイザー
小坂一順、キャスティング田端利江、スクリプター中須彩音、制作担当相場貴和、助監督
松尾浩道、
出演
柳田格之進草彅剛、お絹清原果耶、弥吉中川大志、梶木左門奥野瑛太、徳次郎音尾琢真、長兵衛市村正親、立川談慶、中村優子、柴田兵庫斎藤工、お庚小泉今日子、萬屋源兵衛國村隼。
The 時代劇
草薙が主演で、清原果耶が出演しているので、見てみた。碁のシーンを中心に江戸を描き、締めが斎藤工との切りあいで、いい時代劇だったとは思うが、平凡かな。
草薙、清原、斎藤と好きな俳優が出演しているので、3.5
落語みたいな話だなと思ったら落語だったよ
落語のストーリーを映画にするための脚色は悪い事じゃないと思う。
ただそれを上手く載せるのは難しいよねと思った。
まあ脚本が良くない。びっくりするほど良くない。
テーマを上手くストーリーに載せられてないので結局セリフで全部役者に言わせてる。
登場人物の心の変化や機微が全く描けてない。
どうして兵庫は格之進を目の敵にしたのか、何故細君は国許に残っていたのか。最後に誰にも言わず旅に出なければならなかったのか。
格之進は誰からも嫌われていたって事です。
そんな嫌われ者でも何人かは上手くやれる人が居るもので、そんな人しか出てこないんですごく良い人に見えてしまってる。
何でもかんでも正しさを求める人なんか付き合い辛いだけです。
これらをちゃんとストーリーに載せられずに中途半端にセリフだけで進めちゃうから、誤った解釈で溢れてる。
俳優を褒める声が多いので演出は上手くいってると思います。こんな脚本でも観れる映画になってるのは監督の演出力が高いせいでしょう。
テーマをちゃんと脚本の落とし込めなくても、優秀な監督を持ってくればそれなりに観れる作品になるって事が分かる映画です。
映画としては2点ですが、色々と考えさせてくれたので個人的には良い映画とします。
あとずっとホワイトミストはいただけない。
もうちょい番手を落とした方が見やすい。
退屈だったなぁ
草彅剛じゃ無かったら途中で見るの止めてた。
役者は上手い人揃えてるのよ。
でも、何か盛り上がらない。理由の一つが碁が良く分からん。盤面を見ても、どっちが優勢とかも分からないから、気持ちが入り込めない。今、碁のルールとか分かる人がどれだけ居るんだろう?って思う。が、その辺りのフォローが何も無い。もう一つが、本来の落語の人情話に仇討ちをプラスしてしまい、その仇討ち関係(藩の内情含め)の絡みが今一伝わらない。
何と言うか、脚本が全体にフワッとし過ぎてる。
真っすぐな時代劇
個人的にはかなり見やすく楽しめた。
國村隼が珍しく?良いやつの役だったことに驚き。
“時代劇”を意識した演出も随所に見られ、監督のやりたいことを強く感じられた。
しっかりと復讐を遂げようとする主人公の姿は、コスパ志向(嗜好)にとりつかれ、安直なポジティブシンキングに毒されている自分にはかなり新鮮に映った。
落語では語られない場面も観られます
先日(2024/09/21〜9/22)、2回に分けて観ました。
序盤に落語家の立川談慶さんが登場したのは、嬉しいサプライズでした。柳田格之進役の草彅剛は実直な浪人を演じていましたが、やはり草彅剛が浪人を演じているに過ぎず、悪い意味で予想通りでした。振る舞いはそれっぽかったですが、凄味を感じるには至りませんでした。
やはり本作での功労者は、萬屋源兵衛を見事に演じ切った國村隼に他なりません。丁寧な言葉遣いに見え隠れする“嫌味なあるじ像”を見事に体現してくれました。その嫌味なあるじは、人を見る目に長けており、柳田格之進の実直さに碁を介して気づき、少しずつ立ち振る舞いが変わっていきます。その移り変わりに國村隼の演技力の底深さを感じました。
落語でいうところのサゲ間近、柳田格之進が約束を果たしに萬屋へ赴き、刀を振り下ろした場面。柳田格之進の台詞がなかったのが残念でした。仇に介錯するシーンを前に観せ、緊張感を与える所までは良かったですが😕
落語の一席では語り尽くせない部分を、映像で観られたのは良かったです。落語は人の業の肯定といいますが、『柳田格之進』の一席もまさにその通りで、誰にも起こりうる失念や偶然による間違いや不運を考えさせられ、とても意義があると思います。
本作を気に入った方は、是非落語の方もご覧になってみて下さい‼️
草薙の演技と背景の雰囲気はいい
古典落語を基にしたストーリーだが、この噺はどうしても志ん朝の挙措が目に浮かんでしまう。高潔な武士を草薙が演じているが、なかなか鬼気迫る良い演技をしている。背景、音楽も日本映画らしさが出ていて楽しめるが、残念ながら脚本が少し甘い。終盤に娘を向かいに行った草薙が借りた50両はいつ返されたものなのか。いつの間にか草薙の手中にある。
それに一度は父に嫌疑をかけた男と夫婦になる娘も腑に落ちない。それほどまで心に想っていたのか、その描写もなく、ストーリーを落とすために夫婦に結びつけてエンディング、というやっつけ仕事感がある。そのあたりをもっと踏み込んだ脚本にしたら完成度は格段に上がったであろう。
このままだと志ん朝の噺の方がより響くだけである。
曲がった〜ことが大嫌い〜♪…
柳田様はそんな人。妻の死の真相を知ってからが一気に物語が急加速。草彅剛の演技も様変わりする。許されざる悪事を働いていた兵庫だが、柳田のせいで藩を追われた者たちへの言及は確かに分からないでもない。袖の下を貰っていたのは自業自得だが程度の問題かと。ラストは柳田はその者たちに掛け軸売った金を渡しに旅に出たのだろうか。碁盤斬りって、そのままの意味だったか。清廉潔白の人はある意味怖い。しかし、一時でも娘を売り飛ばすような真似は腑に落ちない
復讐劇
全く期待しないでアマプラ配信でやってたので何気なく観た。
いや、面白かった!
時代劇はあまり好きではないが、これは面白かった。
やっぱり復讐劇は王道で面白い!
意地悪い質屋が囲碁の強い侍と出会って
良い人になっていく展開も良い。
でも、ただ一つ納得いかない展開がある。
それはラスト!
いくら好きだったとはいえ、父親を盗人扱いして、
しかもそのせいで、自分が売春婦にまでさせられた男と
その後、結婚するなんて!絶対にありえないでしょ!
絶対に納得出来ない!!この親子、馬鹿なの!?と思った。
普通そんな人、信じられないし、許せないでしょう!?
観ていて「そんな馬鹿な!?ありえないだろ!」と
大きな声を出して突っ込んでしまった。
いくらなんでも美談にし過ぎ!
最後の最後で興醒めしました。
でも、全体的には良く出来た作品だと思います。
「青春18×2」の清原果耶さんに惹かれて
見たかった動機はタイトル通り
時代劇は好きだし評価が高いし見ない理由は無かったかな
草薙さんの演技に不安があったのだが大好きな國村さんがしっかり
草薙さんの演技を助けていてくれて、まずまずの及第点でした
ただ、物語へののめり込み度でいうとところどころ引っ掛かりがあって
素直に入り込めなかったのが残念
守銭奴な萬屋の旦那があっさりいい人になっちゃう点
その旦那さんが、50両の置き場所を思い出せない点
斎藤工の「悪役」が全然悪人に見えない点(悪人の貫禄がない)
旦那さんの跡継ぎ?がなぜ知り得た情報をすぐに皆と共有(特に旦那さん)しないのか
そもそも、柳田格之進の生きざま、言動をあれだけ見せつけられていて
(旦那さんの生きざまにまですぐに影響を与えるほどなのに)
なぜ、あっさりと盗人の疑いを本人に向けるのか
まぁ、細かい事なのでいちいち気にしなければいいのだが
見ていてそんなところが引っかかってしまって、自分自身でこの作品を
つまらなくしてしまったかもしれない
囲碁のことは全く分からないのだが、スクリーン上で展開する勝負の展開は
わかる人にとってはさらに面白さが加わるのだろうか
囲碁、ちょっとやってみたくなった
廉直の果て
◉もう、腹を切らせてやれ
観賞後の情報で「柳田格之進」と言う人情噺があることを知りました。それとちょいと前に、「廉直」と言う言葉の意味=「行いが潔白で正直なこと」を改めて知っていました。
廉直を痛いほど感じさせる武士である格之進と、健気な娘の清貧な暮らしが軸となって、物語は進む。囲碁にも滲み出る(ルールは知らないのですが)格之進の生真面目な人柄が縁となって、萬屋源兵衛との交流が生まれる。
しかし耐え難い二つの憤怒が、廉直の士を襲う。一つは脱藩の原因となった横領の濡れ衣は実は柴田兵庫の策謀であり、更に格之進の妻を辱めていたと言う事実。もう一つは萬屋の50両をくすねたと言う冤罪。憤死に値するような、正に奇跡のような不運。
もはや格之進は腹を切るしかあるまい! と言いたくなる、このシーンまでが話の前段となる。草彅剛の演じる格之進は、硬度は高いけれど脆い金属を感じさせるような「堅物」であり、恥辱には耐えきれそうにはなかったのですが。
◉見た目も気持ち良いサゲ
柴田兵庫の断罪に至る追跡行は、苦しく熱く進められて、終盤は賭碁の鉄火場(市村正親)と置き屋(小泉今日子)での、二つの浪花節を挿入した後に、いよいよ本作の見せ場である首切りのシーンへ。商人の主従が私の首を、いや、私目の首をと争ううちに、段々と首が直線に並ぶ。ならば二つとも頂こうと、一声叫んだ格之進が碁盤を叩き斬る。
ここで私は既に心地良い可笑しさに取り込まれていました。ここまでの格之進に対して、堅物であると同時に、脆さ=優しさみたいなものも感じていたのです。それで決着のつけ方にも信頼感を抱いていました。柴田兵庫の首は落としても、商人二人の首は落とさない。二人の首と重々しい碁盤を一瞬等価値にしたサゲは、見た目も含めて鮮やか。
◉独りよがりの正義と、半端な悪
それで改めて、意地を通した格之進もエラいけど、もっとエラいのは清水の舞台から身を投げ打って、父を動かした健気な娘だよね…と、すっかり感動したのですが、やはり、やや引っ掛かりはありました。
一つは、彦根藩時代の格之進が正義を振るう強権的な人間で、人を苦境に落とすほどあったならば、それを例えば追憶の形とかで表して欲しかったです。藩時代の話は囲碁の勝負と冤罪のみだったと思います。草彅剛と回りを囲む俳優陣の秀逸な演技によって、堅物の醸し出す心惹かれる性格が前面に現れ過ぎて、人たちを苦しめるぐらい融通がきかない人間の感じはしなかったのです。
もう一つは柴田兵庫の中途半端な悪。実は格之進の正義によって苦境に陥った人々を救うために、色々と画策していたとか、格之進の妻との不倫も力づくではなく、成り行きだったとか、それを後出しで言われてもね。
結びは幸せな娘の姿を眼裏に刻みながら出奔する格之進。こう言う話の運びならば、「正義だけが道ではない」ことを身に沁みた格之進が、それを乗り越える姿も見たかったのです。
烏鷺んな主人
落語「柳田格之進」が原案というので興味はあったのだが、私のイメージの柳田は丹波哲郎だったので、草彅剛では線が細すぎて違和感があり見に行かなかった。ところで先日、立川志の輔が高座で「柳田格之進」をかけて、(弟弟子が出演しているせいなのか)やたらこの映画を紹介していたので、どんなものかと見てみることに。
落語だと3、40分で語れる噺を2時間程度の映画にするために余分な設定が付け足されるのはやむないことなのか。50両の隠匿という冤罪が主題なのに、浪々の身になった原因として過去の冤罪エピソードが不意に出てきて、焦点がぶれる。なかんずく原話では柳田の妻について先立たれたと簡単に触れられるだけなのに、何とも生臭い因縁話が浮上してイヤな気分にさせられる。
また、囲碁の勝負が大きくクローズアップされているが、本来は萬屋の主人が碁に夢中になって50両のことを失念する理由として出てくるだけで、ここの流れは「文七元結」とほぼ同じ。柳田が囲碁の名手との描写も特にない。
落語には登場しない弥吉という人物を配したのは、もともと品性にもとる番頭が主人の制止をきかず柳田宅へ赴き混乱を招いたのに、後日談でお絹と結ばれるという不自然さを解消したかったからなのかもしれないが、弥吉の終始中途半端な立ち位置が気になる。
クライマックスである“碁盤斬り”をそのままタイトルにするのもどうなのか?萬屋の主従の前で柳田が刀を振りかぶった際に、明明白白にオチが読めてしまう。高座でも最後に「柳田格之進の碁盤斬りの一席でございました」と述べている例はあるが、落語は演題を前もって発表しないのが通例なので、最後に告げるのは問題ない。
柳田の去就もうやむやだ。高価な書画を勝手に売り払って旧来の配下の者に報いるというが、自らのなりわいはどうするのか。原話では帰参が許されて留守居役になっているので安泰だが、三度笠で木枯し紋次郎もどきのラストシーンではすこぶる心配だ。
結局よくよく考えてみるに、うわの空で金子を隠し、店中すったもんだしているのに一向に思い出さない萬屋の主人に重責がある。その後のすべての騒動の発端なのだから、うっかりでは済まされないだろう。一度藪井竹庵先生にでも診てもらった方がいいと思う。
久々にいい映画を見たなぁと思った。
まず、古典落語を元にした映画という事だが知らなくても全く問題なく楽しめる(自分も知らなかった)
そして、草彅剛の演技が好きな方には間違いなくハマる。
序盤は草薙演じる格之進と國村隼演じる源兵衛の囲碁を通して始まった奇妙な友情を軸に、江戸の風景を丁寧に描きながら進むヒューマンドラマ。清貧で慎ましく暮らす格之進父子にはほっこりさせられる。また中盤の囲碁のシーンの光と影の演出は特に美しかった。
後半は一転し格之進が藩を追われた真相や妻の死の真相、さらに50両を盗んだというあらぬ疑いまでかけられ不穏な空気に。自ら吉原へ行くことを懇願し、父が本懐を遂げるよう願った娘は相当な覚悟と父との信頼関係があったと思う。
後半の復讐劇は短いながらも迫力の殺陣がありしっかりと時代劇をしている。見届け人になった市村正親演じる長兵衛も流石にいい味を出していた。
その後のタイトル回収も見事。草薙の演技の真骨頂を見せられる。最後は全て丸く収まり大円団。少々ご都合主義な感じもするが、こういう話はやはりハッピーエンドが良い。一人静かに旅立った格之進は過去に自分が断罪した事で苦労しているという元の同志のところを回るのだろうか。
一つ不満というほどではないが思ったのは、敵役にしては柴田兵庫を演じる斎藤工が色っぽすぎる事だろうか。時代劇の敵役、ましてや妻の仇ともなればこれでもかと憎らしい方が成敗した後スッキリするかな。コレはコレで悪かったわけではないのだが。
時代劇は割と好きなのでよく見るが、最近の映画はコメディなものが多く(好みだが)久しぶりに重厚な本格時代劇を見た感じ。エンドロールも無駄に長くなくとてもシンプル。
テレビドラマだが、任侠ヘルパーから嘘の戦争、罠の戦争などは見たが、草薙くんの演技、特に表情はますます磨きがかかってきたなぁ。
清廉潔白はいいけれど
清廉潔白な柳田格之進と草彅剛のイメージはとてもマッチしています。
堅物過ぎるくらい清廉潔白な格之進の囲碁がケチべえと陰口をたたかれる國村隼を心優しい商人に変えていく序盤は良い感じ。
ただ、その後、50両紛失の嫌疑をかけられ、潔白を示すために娘のお絹は女郎屋へ。これって当時の武士としては当然なのかもしれないけれど、自分の潔白を維持するために娘を犠牲にするの??と嫌な感じ。
そして、敵役の斎藤工に、お前の清廉潔白のせいで藩を追われた者は大変なんだ的なことを言われて動揺。そんなの分かってるでしょ?と思うし、困ってるったって、不正をした人々なんでは?とここでも疑問。
とどめは、斎藤工が持ち逃げした城の掛け軸を、自分の清廉潔白さで藩を追われた人々のために売るから、自分にくれと部下に言う始末。そんなのに巻き込まれちゃった部下はバレたら切腹ものなのに。清廉潔白どこいった?
といった感じで、もやもやが残る作品でした。
え?そうなっちゃうの?/奥野瑛太さんはとても良かった
好きな俳優さんが多数出演で期待値大で鑑賞。
全体的な雰囲気は良かったのだが、草彅くん演じる柳田格之進がどうしてそこまで意固地になるのかと、最後に父親(格之進)をひどい目に合わせた張本人の質屋の甥っ子と格之進の娘・絹が祝言をあげているシーンに超違和感。
いやいや、それはいくらなんでも変でしょう。
それまでのお絹は父親を窮地に追いやった人物をそう簡単に許すような人物像として描かれていましたっけ?
とはいえ、これは脚本の問題なので、俳優陣の演技は総じて良かった。
中でも非常に感動したのは奥野瑛太さんの演技。
奥野瑛太さんというと一癖ある濃い役が多い印象だったが、この映画の中ではとても誠実でいい意味で普通の武士の役を見事に演じていて、スクリーンに映る奥野瑛太の姿に見惚れてしまった。
普通の人を演じることによって元来持っている顔だちの美しさも引き立ち、新たな魅力を発見できた。
今後も活躍してほしい俳優さんである。
ベタな泣きが足りない
草薙君のキャラ作りは素晴らしく、役にはまっている。話の全体構成も悪くない。
ただ、つらい心情を描く部分が軽く、ラストのカタルシスが弱くなった。
1番弱いのは、後半の敵を求めてさすらう部分。ここで格之進(草薙)がどんどんボロボロになっていく姿、敵がなかなか見つからない焦り、一方で吉原で待つ娘(清原果耶)が遊女に妬まれていびられるとか、ヒヒ親父に目をつけられて胸もまれたり、店に出るのを舌なめずりで待ちかまえられるとか、二人の苦境をもっとベタにしつこく描かないと、けりがついての感動が弱くなる。
碁盤切りのシーンでも、源兵衛(國村隼)や弥吉(中川大志)が格之進が盗んだと思った時の落胆やそれゆえの心ない言葉などが軽いので、格之進の二人を許す悲哀が迫ってこない。
泣きの話は、ベタな悲しみをしっかり描くことが大切です。
貫く姿勢
人間の感情を豊かに育て上げる物語。
浪人に落ちてもその生き様を貫き生きる親と、その親を支える娘。その父親と碁を交えることで知り合う商人。
碁盤を打つときにもその真面目さが滲み出る碁を打ち交わすことで心を豊かにしていく商人。
いろいろな世情も見え隠れする中で1つの出来事と過去の事件の2つが同時に動き始める。
その中で苦悩し模索する姿がとても人間らしく、そこで打つ碁が彼の生きてきた道とこれからの道を示してる様でとても心を揺さぶらせた。
傑作です
白石監督の新作が「柳田格之進」という落語からインスパイヤされた話と聞いて
どんな話になるのか?復讐エンタテインメント?
復讐話ではない気がするけど?
落語って結構無理がある話を話芸で補って(ごまかして)いるところがあって、
この噺も、よく考えると?なポイントがある。
平和になった江戸時代、浪人となり娘とつつましく暮らす格之進
囲碁で親交を深めた源兵衛の家に対局を行っている最中、
源兵衛は50両を紛失してしまう。
番頭からの疑いをかけられた父、格之進を思い、
娘自らを吉原に売ることでお金を作り、返済させる。
「これは盗んだ金ではない。もし金が出て来るようなことがあれば
疑いをかけたお前の首を貰い受ける」格之進は番頭に言って去ったまま行方不明になる。
その年の瀬、金を発見した源兵衛が、疑いが掛かったままの格之進を
探していると、藩に戻って昇進し身なりも整った格之進が
江戸に用事で戻ったところに鉢合わせする番頭。
金があったことを格之進に伝えると、「首を洗って待っていろ」と番頭を返す。
番頭がことの顛末を源兵衛に伝えたころ、格之進がやってくる。
源兵衛は「番頭には子供も妻もいるから勘弁してくれ。切るなら私を」
番頭は「私がした約束ですから私を切ってください。私には妻も子供もいません。」
刀を振り下ろした格之進、碁盤が真っ二つに…
源兵衛はすぐさまお絹を吉原から連れ戻り、番頭と夫婦になって
幸せに暮らしましたとさ
ここで大きな疑問
こら格之進、娘を吉原に売ったまま藩に戻って何しとんねん。
白石監督、私のこの疑問を納得させてくれました。
柴田兵庫なる人物を登場させ、彼への復讐も含めた話にすることで
矛盾を解決、見事です。
時代劇の殺陣も、様式美というより、七人の侍のそれ、大好きです。
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