「時代劇をじっくり堪能しました。改心いていく萬屋が特にいい。ただ気になることも。」碁盤斬り ITOYAさんの映画レビュー(感想・評価)
時代劇をじっくり堪能しました。改心いていく萬屋が特にいい。ただ気になることも。
時代劇をじっくり堪能できました。
冤罪の罪を着せられ、浪人に身をやつし、娘と二人、長屋で暮らしていた柳田格之進が、50両を盗んだ疑いをかけられる。
潔白の証明のため、娘は身売りして50両を用立て、格之進は冤罪の真犯人を追うたびに出る。
娘を吉原に出してでも、清廉潔白を貫く武士の誇り。
しかし昔、正しいとしたことで、多くのものが路頭に迷う結果になり、正しいことが全てかと苦悩する。
寡黙な武士が似合う草なぎ剛、奥ゆかしく清楚な清原果耶、心の変化を演じる國村隼らが好演。
非情な商いで有名だった萬屋源兵衛が、店先であらぬ因縁をつけてきた客を追い払ったのに礼金を受け取らない柳田に対して、今後きっとたかってくるだろうと疑う。
しかし、囲碁を通して、柳田の何事も公明正大、正々堂々という信条に感化され改心していく様子に感動しました。
これが、下手な中堅監督だったら、全部セリフで語らせてしまったでしょう。
予備知識なしで観るのが信条なので、今回も観ていて「50両がない」というあたりでおかしいなと思ってみていたら、これは落語(「柳田格之進」)ではないかと気づきました。
観ている最中は、仇討ち話に50両をくっつけたのかと思ったら、その逆でした。
「碁盤斬り」というタイトルも、碁盤の目のようにさいの目に切るとか、分厚い碁盤も真っ二つ(こっちが正しい)という「剣の技の名前」かと思ったら、まさかの”下げ”だったとは。
余談ですが、50両にまつわる落語はたくさんあるので、最後、50両を吉原に届ける途中で、誰かにぶつかってすられたり(「ねずみ穴」20両)、大川に身投げしようとしている人にあげちゃったりしないかと(「文七元結」)ひやひやしました。
全編良かったのですが、どうしても気になるところがいくつかあります。
神は細部に宿るといいます。詰めの甘さが気になります。
そもそも番頭の一声のせいで、今回の騒動になったにもかかわらず(落語だと柳田に効くのは番頭本人)、50両がなくなったときに、そもそも自分のせいだと弥吉をかばうとか、斬りに来た柳田に自分のせいだと立ちはだかるとかが、一切無いので、番頭が呑気な顔して「高砂や~」なんて歌ってると、めちゃくちゃ腹が立ちました。
また、晴れて1日遅れで身請けとなり吉原を去るときに、以前お絹が吉原に来たとき目が合った女郎の反応のカットが一切ないとか。
命を取りに来る座敷に、碁盤がいかにも不自然に、これ見よがしにドーンと置いてあるのが品がなく、もうオチがミエミエで一気に覚める。
もう中盤ですでに出てきているので、横にチラッと見切れている程度で十分で逆に如何にさりげなく画面に入れるか配慮すべきと思いますが、観客を信じてないのが気になりました。