「物語、演技、演出をおおむね楽しめたが、若干の物足りなさも」碁盤斬り 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
物語、演技、演出をおおむね楽しめたが、若干の物足りなさも
ほぼ予備知識なしで鑑賞。所々不満に思う部分はあるものの、おおむね楽しむことができた。藩を追われ食い詰め浪人になった格之進を演じる草彅剛は静から動への振り幅が素晴らしく、ジャニーズ事務所退所後にテレビの仕事が激減するなど彼自身の不遇の時期が役柄に重なるのも感慨深い。格之進の娘・お絹を演じた清原果耶の可憐さ、仇の柴田兵庫役・斎藤工の憎々しさがうまくはまっていたし、國村隼、中川大志、奥野瑛太もそれぞれ持ち味を発揮。白石和彌監督は時代劇のメガホンをとるのは本作が初だそうだが、それを感じさせない安定した演出ぶりだった。
古典落語の「柳田格之進」という人情噺を基に、白石監督とは2019年の「凪待ち」(こちらは香取慎吾が主演だった)でも組んだ加藤正人が脚本を担当。調べてみると、娘とつましく暮らす格之進が、囲碁仲間の両替商・萬屋源兵衛の家を訪れた際になくなった五十両を盗んだと疑われて……というのが元の落語の筋。そして、格之進と兵庫の確執から対決へと向かう筋が映画のために追加された創作パートのようだ。時代劇の目玉である殺陣を見せるため仇討ちの話を挿入したのは理にかなっているが、活劇のボリュームとしてはやや物足りないか。白石監督の美学なのだろうが、漫画で言えば見開き大ゴマの“決め絵”に相当するアクションの一番の見せ場となるであろうショットを、大写しのスローでじっくり見せるとか別アングルで繰り返し見せるといった手法を用いず、さらっと流してしまうのがもったいない。
囲碁を知らない観客への配慮が希薄なのも、物足りなく感じた一因。源兵衛の下で働く弥吉が格之進に囲碁を教わるエピソードをせっかく入れたのだから、あのやり取りの中で囲碁の基本ルールをほんの少しでも示していれば、それ以降の碁盤上での勝負に対する興味が増したはず。主要キャストの顔ぶれから見て比較的若めの観客の動員を期待していると思われるので、囲碁人口を増やす好機にもなりそうだが、果たしてどうなるか。