「骨太の時代劇がイイ!」碁盤斬り おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
骨太の時代劇がイイ!
このところ質の高い時代劇が続けて公開されており、先週の「鬼平犯科帳 血闘」に続き、本作も期待して公開初日に鑑賞してきました。
ストーリーは、身に覚えのない罪で妻を失い、藩を追われ、江戸の貧乏長屋で娘・お絹と二人で暮らす浪人・柳田格之進が、その実直な人柄を気に入った質屋の萬屋源兵衛と碁を通じて交流を深めるようになったある日、旧知の藩士から冤罪事件の真相を知らされ、復讐と亡き妻の仇討ちのため、出奔した柴田兵庫の行方を追うというもの。
序盤の立ち上がりは、ゆっくりではあるものの、柳田の人となりや暮らしぶりを端的に描き、優しく作品世界に誘ってくれます。あわせて柳田を取り巻く主要人物として、娘のお絹、質屋の源兵衛、手代の弥吉、吉原のお庚などを登場させますが、多くは説明せず、かといって必要にして十分な情報が得られる、心地よい導入です。
中でも柳田と出会った源兵衛の変容の描き方がすばらしいです。柳田に興味をもち、その心根に打たれ、傾倒し、心酔し、それが商売のありようまで変えていくという源兵衛の心情の変化が、名優・國村隼さんの表情や台詞回しから手に取るように伝わってきます。そして、これが柳田自身の人柄を浮き彫りしているという構図がお見事です。娘のお絹にも同じことが言え、脇がしっかりしていることで、作品がぐっと引き締まるのを感じます。
演出面では、照明に気を遣った陰影のある絵づくりが印象的です。薄暗い屋内に灯るロウソクは、当時の暮らしぶりとともに、柳田の晴れぬ胸の内と復讐への思いを表しているかのようです。碁石を強く打ちつける柳田の横で、音を立てて揺らぐロウソクの炎は、抑えられない彼の憤りを如実に表しています。また、地方の薄暗い碁会所からは、むさ苦しさやほこりっぽさが感じられ、そこで魅せる柴田との対決も、決して派手さはありませんが、鬼気迫るものがあります。
そんな装飾を取り払った、素朴で骨太の時代劇であると感じられる本作。話の展開も決して気をてらったものではなく、どんでん返し的なものもありません。むしろ予定調和の王道展開とも言えますが、時代劇にはそれが似つかわしいと感じます。公開初日にも関わらず観客の入りが少なく残念ですが、誰にでもおすすめできる良質な作品に仕上がっていますので、ぜひ多くの人に観てもらいたいです。
主演は草彅剛さんで、演技にますます磨きがかかったように思います。脇を固めるのは、清原果耶さん、國村隼さん、中川大志さん、奥野瑛太さん、音尾琢真さん、市村正親さん、斎藤工さん、小泉今日子さんら豪華な顔ぶれで、誰もが役にピタリとハマる好演で一部の隙もありません。中でも奥野瑛太さんは、いつもとは異なる役どころながら、これはこれで悪くなく、これからの演技の幅が広がりそうな気がします。
源兵衛の変容の描写により柳田の人柄をも浮き彫りにする、まさにおっしゃる通りです。
源兵衛が柳田との出会いにより変わってゆくさまは、自然でなおかつ心を打つものでした。脚本も、國村隼の演技も素晴らしかったですね。