「心霊というジャンルの再構築」ミンナのウタ R41さんの映画レビュー(感想・評価)
心霊というジャンルの再構築
アイドルのホラー作品
有望女性タレントの登竜門だった心霊ホラーを、男性ユニットで再構成したもの。
対象者はジェネレーションズのファン
「私にも聞かせて…」
作中にも登場するが、かぐや姫のコンサートで無断録音された音源に入っていた実際の言葉をモチーフにしている。
このカセットは瞬く間にコピーされて日本全国に広がったことで、その後たくさんのアーティストのアルバムの中にこれに似せた音源を忍ばせ売り上げアップを図った。
特に記憶にあるのがオフコースだ。その他たくさんある。
さて、
倉庫整理を依頼されたADとたまたま倉庫を覗いたメンバーによって「カセットテープ」が発見される。
この作りは「死霊のはらわた」を想像させ、同時に勝手に「呪い」というものも連想させる。
これがホラー
そしてメンバーとADがなぜ失踪したのかを探偵に依頼することでこの物語が始まる。
私の勝手な想像では、
この作品を通してジェネレーションズのファンへの感謝を伝えたかったのだろうと思った。
「私にも聞かせて…」は、コンサート会場にたどり着けなかったファンの思いが乗せられているからだ。そんな一ファンに向けた感謝…
しかし、
呪いの少女とアイドルユニットに因果関係はなく、この呪いは少女の勝手な世界に他人を引き摺り込みたという身勝手なものだった。
このあたりが新しさなのだろう。
昔であれば、そんな一ファンの思いに感謝するような締めくくり方だっただろう。
ところがこの作品はそのようには描いていない。
3日間
それは、コンサート初日までの時間
メンバーが欠けることなくコンサートに臨む必要があった。
マネージャーの凛は、少女のことを知るにつれ、少女の心に寄り添うことが必要ではないかと思うようになったことと、当時の再現での出来事から少女がした両親を使っての自殺に待ったをかけた。
起きてしまったことは元には戻せないが、少女を助けたいという思いは伝わったのだろう。
サイコパスの少女の思いが一体どこにあったのか知る由もないし、描かれてもいなかったが、凜の気持ちは少女に伝わったようだ。
消えたメンバー全員が戻ってきた。
同時に呪いは消えたと思われた。
しかしコンサート会場で起きた「みんなの鼻歌」
サイコパスの少女が呪いをかけた彼らの中に見たのは、アイドルグループとマネージャー。
彼らを使ってより大勢の人々を取り込むことができる。
これは、
少女が呪いを解いたのではなく、計画を変更したに過ぎなかったのだ。
このあたりにホラーさが色濃く描かれている。
この作品はファンに向けた感謝という意味は少なく、ホラーというものを楽しんでほしいという意向がより強い。
サイコパス少女の「ミンナノウタ」は、彼女の書いた文集の中の「夢と希望」の中の「他人を自分の世界に引き込みたい」思い。
猫の断末魔の音 糸井シゲミを屋上から落としたときの音 母のおなかの中の弟としおの音
そして最後は自分自身の断末魔
このようなサイコパスの心理などわかるはずもなく、共感もできないが、そこにこそ恐怖があるのだろう。
数年前「マツコの知らない世界」でゲストに来た「ムー」の編集長が話した心霊動画の事実
あたかも視聴者から送られてきた体を装いディレクター付きで創作されていることを露呈したことで、以後心霊というジャンルが日本から消えてしまった。
これは同時に心霊ホラー作品の終焉でもあった。
ホラーに描かれるのは心霊ではなくサイコパスや異常者、またはジキル博士とハイド氏のような「私」がホラーのジャンルを引き継いだとおもっていたが、この作品は心霊を再構築した。
心霊もまた一つの「夢」だと思う。
この夢をモチーフに作品が作られなくなったのはどこか寂しさを覚えるが、2023年このような形で再構築されたのはうれしい。
物語もわかりやすくてよかった。