「眼にも耳にも恐ろしい、近年屈指の怨霊ホラー」ミンナのウタ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
眼にも耳にも恐ろしい、近年屈指の怨霊ホラー
放送局の倉庫に放置されていた謎のカセットテープがもたらす怪異に、ダンス&ヴォーカルユニットGENERATIONSの面々が巻き込まれる。
これは近年屈指の怨霊ホラー!
清水崇監督作としては『呪怨』シリーズor『輪廻』以降で一番怖いと感じたし、Jホラー史上においても上位に食い込む出来では。
GENERATIONSの主演起用を初めて聞いた時は、「本業が役者でない面子が主演を張って大丈夫? アイドルのプロモみたいにならない?」と不安だったが……結果的に彼等の起用は功を奏していた。
芸能界=非現実的な現実を舞台にする事で、都市伝説的な設定にある種の業界怪談にも似た現実味が生まれる妙味があるし、そこが終盤の不穏な後味にも貢献している。彼ら自身の演技もまったく不味くない。彼らは過去に映画出演経験があるし、そもそも普段からカメラに撮られ慣れている点も大きいのだろう。
また、清水祟監督は恐怖演出のみならずミステリの語り口も上手い方だが、今回はそこも特に冴えていると感じた。
キャラ紹介を兼ねる序盤は大抵の作品で退屈になりそうなものだが、既にGENERATIONSメンバー間で“歌”が伝染している不気味なミステリを追う時系列シャッフル方式で飽きさせない辺りが巧み。
中盤の“逆再生”からは恐怖のボルテージも急上昇。じわじわ明かされるテープの出自や、高谷家での事件の圧倒的ヤバさ。謎が明かされるほどにヤバさが増してゆく……。
応用から新規まで豊富な恐怖演出は眼にも耳にも恐ろしく、特に「はぁーい」の場面にはさんざんホラーを観てきた自分でさえ危うく悲鳴を上げそうになったし、クライマックスも『呪怨』級の悍ましい怨霊の挙動にガタガタ。くぐもったテープの音、逆再生、神経に障る細かな所作の音など、聴覚でじわじわ恐怖や不安感を煽っていく演出が素晴らしい。
惜しむらくは明確に“死”を描けない展開上、『シャイニング』ばりの終盤の畳み掛けが火力不足に感じた点と、もっと高谷家の内部やさなのノート等を詳しく見せてほしかった点だが……これは些細な不満。
久々に劇場で震え上がりました!
* * * * *
【おまけ】
あの“としお”らしき少年やエンドロール中の新規カットなど未回収の謎も多い。自分なりに色々推察してみた。
■“としお”についての推察
高谷家の前に現れた少年は“としお”の亡霊と思われるが、さな死亡の時点で“としお”は誕生していない。これはつまり、さなの死亡後に“としお”が誕生し、成長した後で亡霊と化したと考えるべきか。時系列順に推察してみる。
・1992年9月2日、さな、母胎内の“としお”の断末魔を収録。手段は不明だが“トントントトトン”は何らかの呪術的な力? この時点で胎内の“としお”は魂を失った。
・さな、死亡。
・さなの事件の直後、高谷家は引っ越したと思われる。事件時に外れた扉が現在もそのままだった事から。
・“としお”誕生。
・“としお”がある程度成長した後、母親は“としお”が別人であると考えるようになる。恐らく母は“としお”に恐怖と憎悪を抱く。
<理由1>
母の亡霊の「さな、わたしのあかちゃんどこやったの」という台詞。
<理由2>
“としお”が一瞬でさなに変貌する恐怖演出。あれは“としお”が実はさなだった、もしくは2人の魂が混在する状態だったと解釈できる。
・“としお”と母、死亡。タイミングや状況は不明。
■さなが主人公達を解放した理由。
・さなは「生まなきゃ良かった」と母に罵られていた。それが彼女の先天的な嗜虐性や何らかの超常的な力を知っての言葉かは不明だが、さなが『ミンナのウタ』に没頭したのはこの言葉が一要因。
・さなは母胎内の弟“としお”が羨ましかったのだろう。自分と違い、母から生まれる事を望まれていたから。さなが『ウタ』を作る過程で“としお”に成り代わったという前述の仮説が正であれば、彼女はきっと酷く母に愛されたかったんだろう。
・『ミンナのウタ』にはさな自身の死も最初から含まれる予定だったと思うが、それは「生きてる価値が無い」自分の生を価値あるものにしたいという願いからだ。裏返せば、彼女は「自分は生きてる価値がある」と思いたかったということだ。
・他方、コードの場面で笑みを浮かべる母は、さなの死を望んでいたに違いない。やるせない。
・マネージャー・角田はさなの死を止めようとした。自分を不気味がる母や同級生と違い、角田は本当に彼女の身を案じて救おうとした。さなはきっと、「あなたにも生きてる価値がある」と初めて言って貰えた心持ちだったのではないか。それがあの涙の理由ではないか。
・角田に免じてさなはLDHメンバー他を解放した。しかしそれは同時に、「『ミンナのウタ』をより多くの人々に届ける為にLDHメンバーが有用である」と判断されたからかもしれない。ならば角田は……いわば、さなのマネージャーに選ばれたという所かしら……。
■エンドロールの新規カット
・エンドロールの最後の2カットは
本編に登場しなかったシーンだった。
①電源コードを丸める女性の手。
②恐らく自宅?の二階を怪訝な顔で
見上げる探偵・権田。
権田の娘も序盤でさなの歌を聞いていた。
まさか権田の娘はさなに取り込まれて……
以上です。
“としお”と母の死に関する空白、権田家に起こりつつある異変、『ミンナのウタ』拡大を匂わせるラスト……これ、もう1本続編作って欲しいくらいに薄気味悪いんですけど……。