「人の心を動かす原動力の正体」アナログ R41さんの映画レビュー(感想・評価)
人の心を動かす原動力の正体
ビートたけしさんの小説
なるほど~ そうでしたか~
そうであれば、感じたことをストレートにレビューさせていただきます。
この作品の特徴として、描かれてもいいシーンをあえて描かないことで、そこが伏線になっている。
後でそのシーンが明確化されることで視聴者にカタルシスが生まれる。
この種明かし部分の表現は良いと思う。
ただそこに一貫性はなく、視点も登場人物によって違うことで、種明かしがそのまま種明かしでしかないので、若干工夫してほしかった。
様々なモチーフもあるにはあるが、それだけ植え付けるかのような手法に新しさは感じない。
最後にそこに行きつくためのクリスマスをイメージさせるあからさまな描き方ではなく、いつものコーヒーが風に漂って彼女の脳を刺激する表現でいいと思った。
母の葬儀を知らないままの彼女
このあたりの描き方は様々なものを想像させていい感じだったが、山下くんの妻が「仕事で手に入れたCD」というのをあのシーンだけで表現したのは是非が残るように思った。
最後の悪友とのPianoでのシーンで、「指輪はどうしたの?」というセリフは、「まだ希望は、私の想いは生きている」ことを示したのだろう。
最後まで敢えて言わない、説明しなかったのは良かったと思う。
さて、
「彼」はなぜこんな小説を書いたのだろうか?
彼にとって主人公は彼の分身だ。
水島とは真逆に生きてきた彼だからこそ、そのコントラストから純愛というもののあり方をこのように解釈したのだろう。
脳障害と意思疎通困難は、恋愛中の男女にとって致命的なことだ。
一般的にはこの絶望的状況こそ、恋愛という感情が最も燃え上がるものとなる。
しかし意思疎通まで難しい場合、物語を動かす原動力は水島以外にはいないことになる。
周囲は応援できるが、途切れることのない水島の思いは絶対不可決になる。
つまり、この時点でもう選択肢がないのだ。
ただ、
実際どれだけの人が水島のようにふるまうことができるだろう?
この問いは視聴者の心に残るだろう。
彼女の状況を知った直後から、ここだけが焦点にならざるを得ない。
物語は、奇跡はどのあたりまで起きるのかということになる。
またはそんなありきたりの質問を超えてくる大どんでん返しへの期待。
その水島の母が言い残した「人には自分だけの幸せがある。それを信じて貫きな」という言葉が、彼の内に秘めた決心だったのだろう。
水島の一貫した誠実さにブレがないのは良かったが、彼女の正体の後の物語の先はすでに見えてしまっている。
しかし、
おそらくこれこそが彼が最もそうだと解釈している「純愛」の形なのだろう。
それには誰も、何も異論などない。
この作品のタイトルにもなっている「アナログ」
このモチーフはうまくあしらわれている。
それは、人の見る目、人の思い、人の心であり、単に「心」なのかもしれない。
突き詰めればアナログの根底にある心こそが、人を動かせる唯一の原動力なのだろう。
冒頭 海と誰かのヴァイオリン演奏と無観客のホールのシーン
あれが現在、水島と出会った直後の彼女の心の中であり、そこには再び動き始めた音があることを示している
エピローグではソロで弾く女性の心と意識はたった一人の観客の水島へと捧げられている。
彼女が見ているのは水島一人だけだ。
彼女のドイツでの過去は、事故によって消え去ったのかもしれない。
そしておそらく「彼」の中にある母親像 つまり、彼女が助かったのは母の力だったのかもしれない。
死んでもなお続いている息子に対する無償の愛 水島と母との関係もまた、「彼」の抱いている純愛の形なのだろう。
彼女の名前 ミハルミユキ ナオミチューリング
最後に水島くんが彼女の名前を「ミユキさん」と呼ぶところに、彼の心の奥底に隠されたメッセージがあったように感じた。
「彼」の様な巨匠に講釈を垂れる人はいないのだろうが、ごめんなさい。感じたことをそのまま書いてしまいました。