「ローテクだからこそ成立する物語り」アナログ ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
ローテクだからこそ成立する物語り
観終わって
原作者の『ビートたけし』が紡いだ繊細な物語世界に驚く。
心優しく、思わず涙さえ溢れるストーリーを創造したのが
〔その男、凶暴につき(1989年)〕や
〔アウトレイジ(2010年)〕のシリーズを撮った人間と
同一とはとても思えない。
小さい頃から模型を作り出すと時間を忘れるほど没頭してしまう
『水島(二宮和也)』は長じてインテリアデザイナーとなり設計事務所に就職、
まさに好きがこうじて、の見本のよう。
ある日、自身が設計した喫茶店「piano」で
似た感性を持つ『みゆき(波瑠)』と出会う。
携帯を持たぬという彼女に合わせるように、
毎週木曜の夕刻に二人は「piano」で逢瀬を重ねるようになる。
しかし『水島』がプローポーズを決意した日を境に
『みゆき』はふっつりと姿を現さなくなり、
その背景に何が?とのミステリー仕立ても、
展開としてはありがちにも見え。
とは言え、連絡の手段を持たぬとの設定は、
逆の意味で斬新、どのようにして
彼女が消えた理由が明らかになるのかと
期待感に満ちた仕掛けでもある。
進展しているようで、なかなか進まぬように見える二人の関係性も
ゆったりしたもの。
取り立てて印象的ではないものの、
静かなエピソードがひたすら積み重ねられ、
観客の側はこの二人に好感を持たずにはおられない。
また、『水島』の親友である
『高木』と『山下』の関係性も麗しいもの。
今時、友人の為に献身し、
泪さえ流して呉れる人間がどれほど存在するだろう。
そうした男同志の友情も心を熱くさせる。
惜しむらくは楽器を演奏する『波瑠』が
あまりにもぎこちないこと。
これがもう少しサマになっていたら、
本作への印象も更に良くなっていただろう。
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