「盲目の娼婦と中国人の少年」ダークグラス 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
盲目の娼婦と中国人の少年
10年ぶりの──という謳い文句だが、行き当たりばったりみたいな筋書きと派生みたいな出来事で構成された猟奇殺人の話。82歳にしていつものダリオアルジェントだった。
日食、盲目、白杖、アグレッシヴな盲導犬、水蛇。ディティールに相関性はなく、唐突で過剰。どのシークエンスも「いったいなにやってんだこのひとたちは」というばかばかしさ。
だが雰囲気は楽しかった。
盲目の娼婦と中国人少年の異色コンビ。主人公Ilenia Pastorelliの誇張の激しい恐怖演技。Ilenia Pastorelliは盛りを過ぎた感じながら、痩身なのにメリハリもあって、好ましいあばずれ感があった。イタリアで人気のリアリティ番組で有名になった人だそうだ。笑うところは一切ない映画だが終始可笑しかった。
娼婦と少年の逃避行になっているのがグロリア(1980)風で、多少そこをドラマ盛りにしてもいいはずだが、なにがなんでもジャッロでもっていく。虚栄心のない筋金入りのダリオアルジェントだった。
ホラーは新しいアイデア披露の場でありジャンルである。アリアスターやジョーダンピールなんかを見ると「恐怖映画も進化したものだなあ」と思う。
かえりみるとダリオアルジェントもかつては旗手であり、80年代(アルジェントが書いた)デモンズは当時新しいホラーとしてもてはやされた。フェノミナやシャドーもあのころとしてみれば今のA24みたいな鳴り物入りだったように思う。
ただし前期を深い紅として後期をシャドーとすると、前期は不完全なアントニオーニのようで後期は不完全なデパルマのようだった。個人的には一貫性をもたない山っ気な監督とみている。
いったい何度愛娘の惨殺シーンを撮ってきたか解らないが娘アーシアの惨殺シーンで家族愛がつたわってくる人もめずらしい。ご高齢とはいえ健在なのはわかった。
imdb5.1、RottenTomatoes52%と40%。