劇場公開日 2024年5月31日

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「テイラージョイのフュリオサのまなざしは破壊力抜群。フュリオサの内なる怒りや決意をひしひしと伝えてくる彼女の“瞳”の強さは身震いするほどです。」マッドマックス フュリオサ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5テイラージョイのフュリオサのまなざしは破壊力抜群。フュリオサの内なる怒りや決意をひしひしと伝えてくる彼女の“瞳”の強さは身震いするほどです。

2024年6月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

 2015年に公開され、日本でも熱狂的なファンを生んだジョージ・ミラー監督のノンストップカーアクション映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に登場したシタデルの大隊長の女戦士フュリオサの若き日を描くスピンオフ映画。アニャ・テイラー=ジョイが若き日のフュリオサを演じます
 フュリオサは、独裁者イモータン・ジョーに反旗を翻し、男児を産むためにとらわれていた女たちを救い出した女戦士です。

 シリーズのファンには釈迦に説法かもしれませんが、できる限り音響の整った(つまり、爆音を出せる)、大画面の映画館で見てほしいのです。文明が崩壊した世界を暴走するモンスターマシンの咆啼や、主人公の血みどろの復讐劇を全身で感じるには、やはりそれが一番です。
 フュリオサは坊主頭で、機械仕掛けの義手をはめたその姿は、前作でも強烈な印象を残しました。彼女を主人公として描かれるのは、何が彼女をそうさせたかという、過酷な……という言葉では生ぬるいほどの半生が描かれます。

●ストーリー
 舞台は、『怒りのデス・ロード』から20年ほど前。本作は五つの章に分けられています 世界が崩壊した時、若き日のフュリオサ(少女時代:アリーラ・ブラウン)は女たちが支配する「母なる緑の地」から掠われ、ディメンタス(クリス・ヘムズワース)率いる巨大な暴走族のバイカー集団「バイカー・ホード」の手に落ちてしまいます。フュリオサは逃げようとするものの見つかり、おまけに抵抗した母を惨殺されてしまうのです。そこからが、フュリオサにとって苦難の道のりの始まりとなりました。
 「荒れ果てた地」を駆け抜ける彼らは、イモータン・ジョー(ラッキー・ヒューム)が統治するシタデルに辿り着きます。ディメンタスとジョーの2人の暴君がシタデルの覇権を巡って対立し争う中、フュリオサ(成人後:アニャ・テイラー=ジョイ)はジョーの下に潜り込み、ディメンタスへの復讐(ふくしゅう)の機会を待ちながら男を装って地位を上げていくのです。そして多くの試練を乗り越え、故郷への道を探す事に。
 やがて両勢力が全面対決の時を迎えます。

●解説
 前作でも登場した要塞の支配者イモータン・ジョーの傘下に入ったフュリオサは、ディメンタスとの戦いに身を投じます。ここからは、息つく暇ないハードアクションの連続。 世界消滅後の砂漠で水と燃料を支配する暴君が割拠する終末世界の、文字通り“ノンストップ”アクション。何しろアクション場面のほとんどは砂漠を爆走する大型トレーラーの上。併走する奇怪な改造車とオートバイに加え、今作では空からも参戦。オートバイに乗っていた戦闘員がパラシュートを開いて飛び上がり、空襲に転じるという離れ業。セリフは無用、高速で走る車両が次々と転倒、爆発しながら追いつ追われつの迫力は、映画的興奮に満ちています!
 特に作品の象徴ともいえる超重量級マシン「ウォー・タンク」は見る者をノックアウトします。巨大トラックを改造した武器満載のまがまがしい一台。砂漠を突っ走るウォー・タンクを巡る15分にも及ぶ戦闘シーンは、オイルや火薬の匂いまで漂ってきそうなド迫力です。
 それだけならば派手だが大味なB級作品にとどまるところ。主人公フュリオサの強烈さが、作品の格を押し上げます。
 シャーリーズ・セロンが演じた前作では、男性の支配下から女性を解放する闘士。アニャ・テイラー・ジョイが演じる今回のフュリオサは、導入部はややおとなしめですが、軍団のマスコットのように連れ回されるなかで、母親を奪われ、ディメンタスによる暴力の嵐にさらされても、彼女はその全てを目に焼き付け、心に怒りの炎を燃し、自分の人生を踏みにじった暴君への怒りをたぎらせるのです。
 そんな境遇を経て成長したテイラージョイのフュリオサのまなざしは破壊力抜群。フュリオサの内なる怒りや決意をひしひしと伝えてくる彼女の“瞳”の強さは身震いするほどです。きゃしゃな体から放つオーラは圧倒的。だから彼女なのかという納得の配役なのです。主人公としてはあまりに寡黙ですが、その目力で全てを語り尽くしていました。
 但し前作のセロンは鋼のような強靭さを持っていました。その鮮明な記憶ゆえに、テイラー=ジョイはまだ線が細く、比較するのは酷ですがいささか迫力が足りないのかもしれません。

 そしてクライマックス、フュリオサとディメンタスの一騎打ちで語られるのは、憎悪の行き着く先です。1979年の第1作からこの第5作まで、一貫して手がけるジョージ・ミラー監督。ムチャクチャのやりたい放題を加速させる一方で、人間の暴力性をしかと見つめる視点はますます強固。喜寿を過ぎてこのエネルギー、恐るべし。しかも続編もありそうなのです。

 アクションだけでなく、人物造形も魅力的。ディメンタスの誇張された悪が光ります。シェークスピア劇の敵役のように残忍でずるいが、かわいげもある。まさに倒しがいのあるボスといったところです。

 特筆すべき点は、ジョージ・ミラー監督のサービス精神が全編にあふれているところ。監督は、彼女のエピソードを、すでに前作製作の際に作り上げていたというのです。練りに練られた必然の物語なのです。だからこそ、このピリピリする瞬間にもっと身を委ねたくなります。今回も一級の娯楽作といえるでしょう。

●感想
 前作と同じ世界観で繰り広げられる前日譚だけに、一部のアクションシーンなどに既視感を覚えることは否めません。しかし、15年以上にわたる物語を丁寧に描き出している点に、シリーズとしての新鮮さがあります。それに加えて今回はなぜフュリオサが“最強の戦士”になったのかをじっくりと解き明かし、戦う女たちの思いを描いた前日譚を目にして、すぐにまた「マッドマックス 怒りのデス・ロード」を見たくなる人も多いのではないでしょうか。

 思わぬ儲け役はハイカー集団を率いるディメンタス将軍を演じた、クリス・ヘムズワースです。彼の姿には人を幸福にする明るさがあります。元々「マットマックス」(1999年)は荒廃した近未来で、乱暴なバイカー集団が狼轍を働く物語でした。
 今作はその過渡期であり、ディメンタス将軍をはじめとして、バイカーたちが各々のバイクに施した装飾が個性的で面白いところ。ただ前日譚のため、前作で観客を熱狂させた過剰な装飾が発展途上なのは、物足りなさを感じます。もちろん砂漠のなかのカーアクションの迫力と見応えは、ミラー監督作品ならでは!文句なく素晴らしいのです。
 ただし派手なアクションはあるものの、前半はフュリオサがまだ幼女で何もせず、間延びを生んでしまっている点は否めませんでした。

流山の小地蔵