劇場公開日 2024年5月31日

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「前日譚かつ成長物語としての制約ゆえに前作超えはならず」マッドマックス フュリオサ 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0前日譚かつ成長物語としての制約ゆえに前作超えはならず

2024年6月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

興奮

ご多分に漏れず「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(2015)を最高に楽しんだクチなので、フュリオサの若き日を描く「マッドマックス フュリオサ」も大いに期待して鑑賞に臨んだ。「デス・ロード」の世界観に再会できて、そうそうこの感じ、と初めのうちは喜んでいたのだが、次第に物足りなくなっていき、前作の圧倒的な映像体験には残念ながら及ばない気がしてきた。

ジョージ・ミラー監督が1985年のシリーズ第3作「マッドマックス サンダードーム」から30年の時を経て発表した「デス・ロード」は、撮影技術の進歩も相まって、シリーズの再創造とでも呼ぶべき破天荒なビジュアル、スリリングでダイナミックなアクションシークエンスで観客を楽しませた。近未来の荒廃した砂漠の地で、3日間という限られた時間枠の中で逃げる大型トレーラー(ウォーリグ)と追う改造車群が繰り広げるバトルをリアルタイムで目撃しているかのようなライブ感(火を噴くエレキギターの弾き手と太鼓叩きたちを乗せたサウンドシステム搭載車もバカバカしくて最高)。もともと対立する立場のマックス、フュリオサ、ニュークスが手を組む展開もシンプルに盛り上がる要因だった。

一方の「フュリオサ」は、タイトルロールの彼女が10歳で連れ去られ母を殺されてから約20年(「デス・ロード」の中で「7000日以上過ぎた」という台詞があった)もの年月にわたるサバイバル、成長、そして復讐の闘いを描くストーリー。観客の心持ちとしては、前作の立て続けに起きる出来事を目撃し疑似体験するような感覚に比べると、どうしてもフュリオサの成長を俯瞰して見守るような、傍観者のような感じが優勢になってしまう。警護隊長ジャックとフュリオサの関係性は、前作のマックスとフュリオサの関係を一部踏襲しているものの、演じるトム・バークが前作の主演トム・ハーディに比べスター性が足りないことも含め、エピソードとしてやや弱い。

そして本作主演のアニャ・テイラー=ジョイ。アクション場面で健闘したとは思うが、前作でトム・ハーディと互角に渡り合ったシャーリーズ・セロンに比べて見劣りするのは否めない。これも成長物語ゆえの制約で、フュリオサが「強くなるまでの過程」を見せる映画であるため、アニャが演じる若きフュリオサが強すぎないこともいわば必然なのだが、肉弾戦で相手をぶちのめす痛快さが足りないと感じてしまうのも観客の自然な反応ではなかろうか。

興収面で北米でも世界でも前作に比べ不振で、前日譚の第2弾「Mad Max: The Wasteland」の製作にワーナー・ブラザースが慎重姿勢を見せているとの報道もある。何とか次で「デス・ロード」を超える大傑作を送り出してほしいのだが。

高森 郁哉