「秀逸なコメディ」ロード・オブ・ザ・リング ローハンの戦い TACOSさんの映画レビュー(感想・評価)
秀逸なコメディ
平成初期辺りのハリウッド作品を彷彿させる色合いの背景美術が大変素晴らしく、作画も常に安定しており、手描き時代のディズニー映画のようなぬるぬるした描画がアニメとして非常に満足度が高かった。
照明、作画、音楽全てが素晴らしい。もうこれだけでこのアニメ映画は観る価値があるし良い映画だったと思う。
しかし脚本の方は予想を裏切る展開で正直かなり笑った。王様の暴れっぷりに笑わない人はいないだろう。
哀れな王様は強すぎるせいでワンパンで臣下を殺してしまい、政治能力も低いので味方の進言を仇で返し戦争にもつれ込む訳だが、異次元の強さがギャグにしか見えず脚本のバランスを悪くしていると思う。
強すぎる脳筋王を早々に退場させて、依存先を失った味方陣営の中でドラマを展開し、主人公が成長する過程をもっと描くべきだっただろう。
拠り所だった家族や故郷を失い1人で立ち上がるという主人公の一番の見せ場を王様の大暴れで掻き消してるのが本当にもったいなかった。
そして敵と主人公の因縁ももっと複雑にドラマチックにしてほしかった。
蛮族の父の元で蛮族としての振る舞いだけを学んだ卑屈で臆病なパパ大好きっ子
(この弱々しく無様な男に敵としての格を持たせた津田健次郎は素晴らしい声優だと思う)と、
蛮族の父の元でなぜか現代の女性の価値観で育った主人公(クライマックスで急に演技が棒読みになって残念だった…)
親を慕う幼馴染2人の成長の違いと愛憎が書きたかったのだと予測するが中途半端だった。
脚本は正直かなりつまらなく、誰かにオススメしたい映画ではないが、ただ一つ光るのはやはり王様のコメディっぷりだ。
美しい背景美術と真面目なストーリーの中に存在する王様の存在はあまりにシュールで魅力的だった。名作映画になる為には王様は足枷だが、凡百の映画に収まらせない旨味を作ったのも王様であると思う。