「支え合う魂の飛び立ち」夜明けのすべて 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
支え合う魂の飛び立ち
「ケイコ目を澄ませて」より私は好きでした。
同じようにドキュメンタリー・タッチで時系列に沿って進行するのですが、
まるで、水が流れるように、
感情が込みあげる、
沸々と溢れる、
それを汲み上げる、
手ですくって飲み込む、
とても全てが自然に感じました。
《ナチュラル》
まず第一に松村北斗さんが素晴らしかったです。
全てのスターオーラやアイドル臭さから、遠く離れた存在でした。
こんなに気配を消して、川添になり切れるんだ!!
ある意味で、川添を生きていました。
ちょっぴり「PERFECT DAYS」の役所広司さんの在り方、
演じるのではなく川添として生きる・・・
少し似ている・・・
そんな気がしました。
無理してないおおらかさ、演じてない自然さ。
もう1人の主役、
PMSの症状に苦しむ藤沢(上白石萌音)は、松村北斗のナチュラル・・・
に対比するリアリティある存在でした。
川添は当初とても儚い存在です。
いつ消えてもおかしくないような脆さ危うさ、
それに対比した藤沢はPMSの症状が出ると、目つきが変わる。
険しく邪悪な光を放つのです。
そして親しい人にまで攻撃的になり、別人です。
(普段は優しく気が利いて気配りの人で、有能なのに、
(人間関係を壊してしまいそう・・・)
そのリアルな演技でPMSの怖さを体現していました。
松村さんとは真逆のアプローチで、彼女も凄かったです。
藤沢と川添は途中から、良き理解者を超えた
まるでお互いがお互いをサポートする同志のような役割を果たして行きます。
★パニック障害になると、味覚も無くなるんですね。
私も2人が抱える悩み・・・と言うより、
衆人の見守る中で、【自分を失う】
【自分の感情をコントロール出来なくなる】
藤沢なら【別人格が現れる】
発作を起こす・・・と一口で言っても、
自分を自分の意志や理性で制御できないなんて、
正にパニック症状に恐怖を覚えました。
《どんなに不安だろう》
川添に欠けている部分、
☆他者を思いやる、気持ちを汲み取る、
☆感受性の鈍さ、
☆殻に閉じこもる、
藤沢の場合は、川添のできない3つのこと、
普段は問題なく行動出来ます。
しかし生理日の前後の何日感は、感情をコントロール出来なくなる。
その藤沢が川添をサポートする。
仕事への向き合い方、
★仕事の中身を深く考える、そして調べる姿勢、
つまり興味を深くする。好奇心を持つ、
この映画での大きなイベントは、テントを張って会社が毎年
開催している「移動式のミニプラネタリウム」
その企画や構成、アナウンス原稿を担当する川添と藤沢。
川添は社長(光石研)の自殺した弟さんの遺した資料や日記を、
倉庫から掘り起こします。
それまでは単純作業で腰掛けで意欲のない仕事を
仕方なくしていました。
その仕事が、俄然と輝き始めるのです。
藤沢のお節介から始まったような川添との関係が、
次第に川添の自信になり、目が生き生きしてくる、
歩きながら食べるお菓子を、
「美味しい!」と思い、口に出して言う、
しかし藤沢は母の看病のための故郷のPR会社へ転職・・・
2人が男女の恋愛感情を挟まず、友情を高めるのが
とても素敵です。
男女の愛情を絡めると起きる、
互いにもたれあったり、要求したり、ギブアンドテイクみたいな
余計な打算的部分が生まれる可能性を排除しているのは、
とても良いと思います。
男と女である前に人間と人間として向き合う。
三宅唱監督のこの作品も、清々しく清潔で品があり、
とても好きです。