「必要な夜とは」夜明けのすべて あしたさんの映画レビュー(感想・評価)
必要な夜とは
映画館じゃないと見終えることができないタイプの映画があって、個人的にはこの映画の冒頭の10分くらいの主人公が周囲の人と馴染めずにはみ出していくシーンたちがつらすぎてきっと配信などで観ていたら停めてしまっていたと思う。
この映画には意地悪な人や悪意のある人は出てこないある意味ファンタジーなんだろうけど、そういう舞台の映画の中にも地獄があって、冒頭の10分は自分にとってかなり刺激の強いシーンだったけど、映画館でだからこそじっと見続けることができて、結果とても良かった。
そのあと、自死した家族がいる残された人たちの互助会のシーンから主人公の男性が発作を起こすシーンまで、もう何故かわからなくなるくらい涙が止まらなくなった。
つらい本人たちとその人を心配している周りの人たち、残された人たち、それらを説明することなく見事に描いていたからだと思う。
あなたのことを理解して心配している、と言葉(セリフ)ではなく2時間かけて映像で表現していく、まさに映画でしかできない作品だった。
映画としてとてもスマートで、あぁこの映画はとても好きだなと思ったのは、冒頭のカフェのシーンで主人公の女性が履歴書を書いているシーン、隣の人が立って席を離れて、次のカットでおそらく主人公の女性が自分の飲み物をこぼして机がびしょびしょになっているシーン。
この省略、描かれていないシーンが、この映像の先を我々観客に想像させて、つまりこの映像以外にもこの人たちは存在すると思わせてくれる。
この映画に出てくる人たち、全ての人たちを好きになるし、この映画が終わった先も大変な時は多々あると思うけどどうか幸せを感じながら過ごしていて欲しいと心から思った。
そういった意味でも、ラストのクレジットのシーンが会社の一コマの長回しシーンであることがとても嬉しかった。
映画の力を存分に感じることができた傑作でした。
素晴らしかった。