「人は他人の心の隔たりに手を伸ばせるか」夜明けのすべて sskさんの映画レビュー(感想・評価)
人は他人の心の隔たりに手を伸ばせるか
映画.comのアカウント変更にミスっていたので、投稿し直しです。
最初に演技について。
出てくる演者の方々の演技は本当に存在しているかのようで、不自然なところが無く鑑賞中に現実に戻されることはありませんでした。
主役2人の抱える精神障害に対しても、映画を作る方々全員が真摯に取り組んで撮影したんだなと思います。とにかく、メインテーマの一つである精神障害についての解像度が高いです。
精神障害に対して、始めは治そうとしたり否定したり、"普通"になろうとしたりともがいていますが、そうではなく受け入れて付き合っていくよう努力していく姿勢に変わっていくところを映しているのが本当にリアルだなと思います。
また、栗田科学の描き方も良かったです。
一昔前は精神障害に対して「薬に頼るな」とか「メンタルが弱い人間がなるもの」とか「医者は信用できない」など、医者でも無い人が精神障害を抱えている人をひたすら追い詰めることが当たり前の光景でしたが、障害を持つ人たちと向き合うためにヒアリングマインドを持って接することを描いていると思います。
もっといえば、山添君の上司の辻本さんにしてもヒアリングマインドがあったと思います。
山添君が今の会社に残ることを決めた時に泣いていましたが、"普通になって職場に復帰すること"を重視しているのではないという点で、山添君自身に向き合っていたんだなというのが分かり、ものすごく感動しました。
設定としても、自分の姉には何も出来なかったことが、山添君には受け入れる姿勢が見られるところまで関われたのが、本当に嬉しいという表現になっている点でも本当にいいシーンだと思います。
別の話になりますが、ストーリー上で星の話もメインテーマとして語られており、他人との距離は人が見上げる星くらい離れているが、孤独な星も誰かにとって目印となるという主張がされています。
映画の中でPOWERS OF TENというタイトルの本が出てきましたが、これは同名のビデオを書籍化したものです。
動画で検索すると出て来ますが、人のスケールである10^0mを基本単位として、その単位を10ずつべき乗、つまり10^2mや10^3m、10^4mなど、スケールを大きくしていくと何が見えてくるのか?という教育動画となっています。
このビデオないしは書籍で語られていることは、極の最大である宇宙全体と、極の最小である原子はそれを取り扱う物理学の観点から見ると似通った動きをしている。どういうことが言いたいのかというと我々の世界は最小の単位からの繰り返し繰り返しで出来ていて、宇宙全体と我々は繋がっているのだ、ということを主張しています。
これをこの映画に当てはめると、人と人の心の距離は性別や障害や背景によって、べき乗のスケール感でいえば星ほど離れているが、その星を見て励みにしたり、あるいは人の心の自由さで触れることが出来る、ということが言いたいのではないか、と思いました。
そう理解した後、本当にこの映画に出会って良かったと思います。
朝に観に行きましたが、夜にもう一度見に行って、鑑賞後に星を眺めに行くのも良いかなと思っています。
この映画で難点を挙げると、辻本さんとの話に比べたら山添君の彼女が過去の話もなく途中でロンドンに行ってしまい、いまいち話としては要らなかったんじゃ無いかなという気もします。
障害により離れていってしまった人間関係というのを描くのであれば、もっと2人の関係を掘り下げてほしかったです。
山添君は上司、藤沢さんはお母さんを主軸にするだけでも割と精一杯のような気もします。