「人を救うのは人」夜明けのすべて えさんの映画レビュー(感想・評価)
人を救うのは人
冒頭、主人公のナレーションから始まって少しわざとらしい(?)なぁと思ったのと、警察に保護されて大雨の中、母親が迎えに来た際になんで傘を持ってきていないんだ。と思ったので少し疑念を抱いて観ていたが、すぐに立ち直った。
まず出演者の演技がかなり素晴らしいと感じた。中学生の子たちまでかなり良かった。主人公2人の症状が出てしまうあたりも、わざと感のない、リアルさがあって辛そうだというのをしっかりと感じた。
何人か特に良かった人をピックアップしようと思ったが、本当に全員自然体で全く違和感なかったので映画に入り込むことができた。
藤沢(上白石)は普段、周りに気を使いすぎるぐらい気を使う性格だが、PMSの症状が出たときは、ヒステリーで攻撃的になってしまう。そのギャップに相手は驚いてしまうし、それが重くプレッシャーにもなっている。改善しようとしているのに(薬を変える)それが裏目に出て、さらに自分の立場を弱くしてしまう。当初の上司がハッキリと怒らないのも、中々リアルで見ていて辛い。
時が流れて、転職した職場は小さいが理解のある会社のようで、観ていて「良かったね。」と安心できた。
そこの新人山添(松村)はとにかく愛想がなく、淡々と業務をこなす如何にも「最近の若者」感があり、とてもリアルに表現されていた。
山添は元々大きな会社のエリートで、上司や仲間からの評価も良かったと見て取れる。察するに本来の自身の能力と、パニック障害を患ったために入ることになった今の会社、自身の現状のギャップを受け入れられず、心を閉じている。そんなプライドから当初は藤沢や同僚を避けていたように見えた。
藤沢の優しさと、お互いの境遇から次第に打ち解けていく流れも多少強引(髪を切る件)だが良かった。
あと良かったのは、主人公2人の周囲の人物の描き方。栗田科学社員の人柄とサポートが素晴らしいのは奇跡的すぎる気もするものの、このような病気が題材の物語だと「理解のない人間」「病気をネタに攻撃してくる人間」が出てくることが多い。が、そのような人物は安易に出さずに、あくまで「発作に対して困惑する」程度にとどめている点が違和感なくてよかった。
二人のそれぞれの恩人である栗田社長(光石)と辻本(渋川 山添の会社の上司)が精神的ケア(詳しくは忘れた)の集会で繋がっていたのも、とても良い伏線回収だ。
2人のそれぞれの発作や症状がいつ現れるか分からないので、鑑賞中もなんだか一定の緊迫感は感じていた。実際本人たちも同様にこの緊迫感が常に頭の隅にあるんだろうなと思うと、辛さが少しは理解できたと思う。
後半のシークエンス、宇宙、プラネタリウムの一連のストーリーもとても良かった。栗田社長の弟が遺したテープの説明や宇宙の話は、シンプルに興味深く、ユーモアもあって楽しかった。プラネタリウムのシーンの最後のメモの締めを聞いていると、なぜだかとても感動的で涙が出そうになった。
そして最後は山添のナレーションだが、映画冒頭ではわざとらしいなあとか思っていたのに、こうやって締められると「めちゃくちゃ良い。」となるのだ。
山添の「自分のことはどうにもできないけど、他の人のことは助けることはできる。」(だっけか?)は素晴らしいセリフだと思った。
これはなにか病気やトラウマを抱えている人に限った話ではなくて、そうでない人も私たち皆がそうではないだろうか。時には自分を律せないときもあるし、悲しくもなるし、怒るときもあるし、失敗もある。自分を完全にコントロールすることは至極困難だ。それでも、自分の周りの人を助けること、助けようとすることは誰にでもできるはずだ。
山添はある時点から、元の会社ではなく、栗田科学に残る選択をする。当初は向上心や、やりがいの無さに愚痴をこぼしていたが、では物語を通して今の仕事に向上心・やりがいを感じたのか。もしくは自身の病気との折り合いをつけるための、ある種諦めのようなものなのか。
もちろん前職に復帰してどうなるか。という部分もあったろうが、私は、やはり理由は「人」であると思った。藤沢や栗田科学の社員、そこに関わる人たち。彼らと接することで山添は残ろうと、残っても大丈夫だと思えたのではないだろうか。未来を憂いていた山添はきっと救われたんだと思えた。
最後の昼休み?のシーンはとても平和で尊かった。