「主演二人の自然体な演技」夜明けのすべて チーズさんの映画レビュー(感想・評価)
主演二人の自然体な演技
PMSとパニック障害の二人が交流し合うことによって、徐々にお互いの心境に変化が芽生える…ざっくり言うとこのような内容だが、上白石萌音と松村北斗あってこその映画だったと思う。
コミカルな役やシリアスな役も、それはそれで難しいものだと思う。しかし、一番難しいのは“市井の人”。私がここでいう市井の人は、私たちが生きているようなどこにでもある街で、毎日頑張って仕事をしているような人のことを指している。このような役はどうしても“オーラ”がつきまとう俳優には難しいし、実際に過去にそういう作品もあった。しかし上白石萌音と松村北斗に関しては、私たちのすぐ近くに住んでいるのではないかと思ってしまうほどの庶民臭を感じ、とてもリアルな雰囲気を感じた。
上白石萌音はPMSを抱えている主人公•藤沢を演じている。劇中ではPMS発症時と正常時の演技が見られるが、この演じ分けが素晴らしかった。見ているこちらまでがしんどくなるほどPMSの苦しみが伝わるほど非常にリアルな演技だった。
松村北斗はパニック障害を抱えているもう一人の主人公•山添を演じている。松村北斗は「すずめの戸締まり」といい、「キリエのうた」といい、アイドルのオーラを消して役になりきれる人だと感じていたが、本作でも彼の強みは遺憾無く発揮されていた。演じるというより、役そのものに憑依していると言った方が正しいだろうか。
上白石萌音と松村北斗の掛け合いの演技が本作では多いが、それが最高の一言で、それを見れるだけでも本作を鑑賞する価値はあると思えるほど良かった。過去に共演したことがあるとのことなので、もしかしたら仲の良さがいい意味で芝居にも現れていたのかもしれない。
脚本で良かったのは、安易に藤沢と山添を恋愛関係に発展させなかったことだ。共通点のあるもの同士が徐々に惹かれあっていく…というパターンはよくあるものだが、本作はあくまで二人を“同じ職場の同僚”という関係のまま終わらせたのが良かった。
また、主人公がプラネタリウムを制作する展開もかなり意味のあるものだった。主人公二人はもちろん、脇役もなにかしら影の部分を持っており、暗闇に中にいる人物が多かった印象だが、明けない夜がないように、人生にだって光り輝く時がくることを強調する役割を担っていたし、プラネタリウムで見ることができる星空のように、それぞれの個性を発揮して輝けばいいというメッセージのように感じた。
ただ、残念と言うか、もう少し明かしてほしかった部分も多い。例えば、栗田化学の社長の弟が亡くなったというエピソードだが、これはそこまで必要なことだったのだろうか。家族を亡くした経験を持つ遺族が集まる会の様子まで描いておきながら、弟の死因が明確に描かれなかったのも疑問だった。推測では自ら命を絶ったと思うのだが、それにしては理由がなさすぎる。
他にも、藤沢の母親(りょう)が車椅子生活になったきっかけはなんだったのだろう。病気なのか事故なのか、この理由も隠す必要がないのになぜか明かされなかった。無理に入れる必要がないエピソードを入れたのかだから、理由くらい描いてほしかった。
ただ、前述したように、主演二人の演技を見るだけでも価値があると思うので、お時間ある方は映画館へ足を運んでもいいと思う。
こんにちは。コメントありがとうございます。
人の死に関しては、簡単に扱ってはいけないものだと思っています(特に自ら命を絶つなどのエピソードは気軽な気持ちで書いてはいけないと考えています)。なので私もこのエピソードに関しては疑問を持ちました。
こんにちは。
社長の弟に関しては、最初に酒を供えるところで敬語だったり、よく分かりませんでした。
写真見つけたときの「こんなところにあったのか」も思わせぶりなだけだし…
深く描かず、しかも本筋との関わりが薄いのであれば削ってもよかったかな、と思います。