劇場公開日 2024年2月9日

「理解しようとすること」夜明けのすべて キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5理解しようとすること

2024年2月16日
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原作未読。

評判の良さを見て劇場へ。

先日の「パーフェクトデイズ」と同じ様に、何か大きな出来事があるワケではなく、基本的にはそれぞれの日常が描かれる。

「パーフェクトデイズ」が、健常者の日常に見える毎日も、本人にとってはその「揺らぎ」の中で生きていることを描いたのに対して、本作は世の中には理解されにくい健康の悩みを抱える二人の登場人物が、それでも自分の居場所を手探りするお話…とでも言えるだろうか。

健康に悩みを抱えた方々が、いわゆる「日常」の中で生活していくのは、周りの理解が必要になる。
でも、少なくとも日本では身体の不調は隠して頑張ることが美徳とされてきたし、そもそも本人にとって「打ち明けたくない」悩みである場合も多い。

周りの人間にできることは、まずは「理解しようとすること」なのだろう。

ただ、こういう社会的弱者を描く作品って、必要以上に主人公の周りの酷い現実を強調し、その境遇を背負って本人が苦しむストーリーになってしまいがちだが、この作品はそうではない。

冒頭、本人の独白で細かく病気の説明から始まる主人公の藤沢さんに対して、説明なくただ失礼でやる気無さそうな山添くんを、我々は「コミュ障」としてレッテル貼りをする。
ここで我々観客はやはり「理解」がなければ人は簡単に他人について憶測で判断し、時には大きく傷付けてしまうことを体感する。

この主人公二人は同世代の男女だが、決して「恋愛モノ」に流れないのもありがたい。

天文学をモチーフに「夜があるから広い宇宙を知ることができる」「同じ様に繰り返される天体の動きも、決して同じものはない」といった話が、上白石萌音の柔らかな声で、日々の生活に疲弊してしまった人々に優しく響く。

このプラネタリウムのクダリが本当に素晴らしいワケだけど、聞いた話によると原作はプラネタリウムじゃないとか。
「ウソだろ?」
と驚きを隠せないほど、このラストが秀逸なのだ。

というワケで、原作を読んでみたくなる映画。

ストーリーもさることながら、もう、何しろ役者の皆さんの演技の良さよ。
主人公だけでなく、ここに関わるみんなが、おそらく少なからず何らかの苦しみを抱えている。
それでもお互いを尊重し、お互いの居場所を守っている、そんな「日常」を本当にさりげなく演じている。

ラストは当然「病気の完治」みたいな
ことではなく、それと上手く付き合いながら、生きていく日常の姿。

それにしてもプラネタリウム無しでこの話を終えた原作は、今回映画であの社長の弟が残した「苦しみの中で見いだした微かな希望」を、どう表現してるのか。
気になる。

キレンジャー
大吉さんのコメント
2024年2月29日

藤沢さんのPMSについては詳しく説明(描写)があるのに、山添くんのパニック障害についてはなかったのは、そういう効果があったんですね。たしかにそうでした。

大吉