劇場公開日 2024年2月9日

「自転車で動ける範囲の共生社会」夜明けのすべて あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0自転車で動ける範囲の共生社会

2024年2月11日
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原作をしっかり受け止めて消化しさらに主張に拡がりと深みをもたせた素晴らしい脚本、演出だと思う。
原作を読んでいないと理解し難いシーンがある。早退した藤沢さんの忘れ物を山添君が届けにいくところ。山添君は藤沢さんに借りた自転車に乗る。パニック障害の彼はそれまで電車にもバス、タクシーにも乗れず行動範囲は徒歩で行けるところまでだった。このシーンは自転車に乗れるようになった彼の世界が大きく広がった瞬間を捉えている。日が射し風が吹き世界は美しい。
原作も映画も軸となっているのはPMSの藤沢さんとパニック障害の山添君で変わりない。自分でコントロールできない不具合を抱えている彼らはお互いを理解し助け合うこととなる。
ただ三宅唱監督は、この話を映画に置き換えるときに、大事な人を亡くして心に傷を負う栗田社長や辻本課長、リハビリをする藤沢さんの母親を周辺において、共生の範囲をやや広げた。とはいってもそこは栗田科学の職場中心のごく狭い地域社会ではあるのだが。(山添君が自転車で動ける範囲)
三宅唱は「ケイコ、目を澄ませて」で同様な手法を使っている。そこでは聴力障害のボクサーケイコを中心に、ジムを始めとした地域社会が描かれた。
つまり地域社会における共生=インクルーシブの可能性を三宅唱は提示しているのだろう。そしてその中ではハンディキャップのある人たちも一定の役割を果たす。映画の中で、藤沢さんは「パニック障害で良いことってあるかな」と山添君に問いかける。この時点で山添君の答えはないが、回答は映画の中にある。つまりハンディキャップのある人は、自分の経験に則りハンディキャップのある人の状況を理解しやすい可能性があるのだ。彼らの手も借りて相互理解と共助が進めば、ハンディキャップは最終的にはただの個性として社会の中で馴化される。
「夜明け」という言葉について原作には言及がない。映画ではプラネタリウムの設定で説明がされている。世の中にある無数の家庭、職場、社会にそれぞれの夜があり闇がある。でも手の届く範囲からでも相互理解と共生が進めばより暮らしやすい世界が到来するかもしれない。そういうことを感じた映画であった。

あんちゃん
かばこさんのコメント
2024年5月24日

共感とコメント、ありがとうございます。
宇宙人ジョーンズが一番の若手で美味しい役でしたよね、>おじいちゃんたちが宇宙に行く映画

夜明けは待ち遠しいですが、この映画では「夜にもいいことはある」と言っていて、目からウロコでした

かばこ
talismanさんのコメント
2024年4月29日

日本で自転車移動は乗る方も歩行者もとても危険で怖い!車の運転者もちゃんとルール習ったのか!と思うほどひどいのが沢山ですね!歩行者優先・横断歩道優先概念がない!むかつくー!これから車は経るだろうから歩道にお決まりのようにある(業者と自治体の癒着のように思えるから)木々をなくしたら、自転車専用レーンは簡単に作れると思うんだけど。

talisman
2024年3月14日

歩ける範囲、手が届く範囲で生きていくことが人間の本分かなと思います

talisman
トミーさんのコメント
2024年2月12日

コメントありがとうございます。
“何か企む表情”の人は皆、ポール・ダノと称してしまいます。
原作について教えていただき、ありがとうございました。

トミー
トミーさんのコメント
2024年2月12日

原作未読なんですが、渋川さんが松村くんを送り込んだのは、光石さんとの交流が有ったからなんですかね?

トミー
Mさんのコメント
2024年2月12日

「ケイコ、目を澄ませて」と同じ監督さんだったのですね。
いい監督さんですね。

M
sow_miyaさんのコメント
2024年2月11日

前作の「ケイコ」との共通点の指摘に、なるほどと思いました。

>回答は映画の中にある。

言葉での説明ではなく、シーンの積み重ねでそれを観客に伝えてくれていましたね。そういえば、栗田科学の社訓には、「想像」と「創造」の言葉が入っていたと思います。他者への想像力を持った共生社会の創造がこの映画のテーマかもしれないとレビューを拝読して思いました。

sow_miya