94歳のゲイのレビュー・感想・評価
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94歳のゲイに励まされる
自身がゲイである事を長年隠してたった一人で生きて来た94歳の長谷忠さんの半生を追ったドキュメンタリーです。軽やかだけれど切なく、大変勉強になる一作でした。
まず、僕の実家から直ぐの所にある大阪西成区の旧釜ヶ崎近辺が舞台である事が本作をグッと身近に引き寄せます。長谷さんがここに引っ越して来たのが、「男が沢山居る」と言う理由であるのもちょっと愉快です。この地での日常を描きながら、カメラは日本におけるゲイの社会的文化的歴史を振り返ります。20世紀の前半には、同性愛は病気とみなされ、1913年発行の医学書タイトルが「変態性欲心理」であったと言うのは衝撃的です。
長谷さんも少年時からご自身の性的指向に気付きながら「言ってはいけない事」としてひた隠しにして来たのですが、その抑圧により自身の心が変調をきたしたので職場でカミングアウトしたところ、周囲の視線は冷ややかになり孤独を一層深める事になってしまいました。
そうしたゲイの歴史紹介の中で僕が注目したのは、1971年に発刊されたゲイ雑誌「薔薇族」のお話でした。僕が学生時代にも本誌は「キワモノ雑誌」扱いで秘かに回し読みされていました。でも、なぜ毎号「ムキムキの肉体にふんどし姿」なのかが全く理解できず、興味が湧きませんでした。しかし、当時のゲイの人々には「こんな指向は自分だけではなかったんだ」と言う事を知れる大いなる救いになったのだそうです。そうだったのかぁと改めて思い知らされました。
でも、恐らく「ムキムキにふんどし」だけがゲイの人々の指向ではなく、もっと多様性があるだろうと想像します。そして、あのふんどし姿の鮮烈なビジュアルが多数派の人々による同性愛者へのからかいのアイコンになったのも事実だと思います。当時の僕も、その多数側に居ました。その辺の功罪(?)をもう少し知りたかったな。
と、自分自身の精神史をも振り返り、様々な疑問や考えを引き出すのに最適の作品でした。
新聞や雑誌でいい男の写真を見つけると今も切り抜いている長谷さんの姿を見ると、「僕もいつまでもスケベでいいんだな」と妙に励まされるのでありました。
もっとお話を聞きたくなりました
もっとたくさんお話しを聞きたくなるのは、
長谷さんのお人柄によるのかな。
とってもチャーミングで、ゲイであろうとなかろうと
繊細でウィットに飛んで、
関西人の笑かしたろか精神も併せ持ってて、
本当に魅力的なおじいちゃん。
そして、とても元気!
あと、お肌がツルツルなのはなぜ?
そこ羨ましいところ。
ずっと一人で生きてきた…。
って軽い空気で言っていらしたけど、今だから懐古的に言えるのでしょうね。
孤独を詩を書くという才能に変えて、
とても素敵な詩を書かれていて、
もっと読んでみたいと思いました。
ボーンさんというお友だちもでき、
まだまだ、お元気でいて欲しいです。
胸を打つけど「普通のゲイ」の話ではないです
私は63歳のゲイです。
長谷さんの周りの人は、彼の前半生がいかに厳しく不毛であったかと強調したいようですが、当人は幸せそうだったです。
最後の若い女性の「高齢者にはLGBTはいないと思っていた」という愚かな発言が興味深かったです。
三島由紀夫が生きていれば今年で99歳。
長谷さんはそれより年下です。
文学を志していたなら「禁色」を読んでいないはずはない。
私は先輩たちから、新宿などではそれなりの、楽しみや享楽があったと教わりました。
94歳の暗黒面の強調は、それはそれでバイアスを感じました。
長谷さんは大阪人。
ド田舎の人ではありません。
ただ、私の若いころ、ホモだとバレたら会社辞めるしかないわね、と言っていたおネエさまがたの話も思いだしました。
最後に、ある男性とふたりで銭湯にいくシーンが、あります。
彼は銭湯に行ったことがない。
人前で全裸になったことも全裸を見たこともない。
で、越中ふんどしを2つ用意するのです。
なかなか考えさせられました。
それだけ恐れが深かったのですね。
でもあれを昔のゲイとして一般化するのも違うなぁと言うのが、偽らざるところです。
深い人間関係になると「何故結婚しないの?」という質問が怖くて転職を繰り返したということです。
それだけ繊細で正直だったのでしょうが、そういう人もいたわよねぇと言うことで、多くのゲイはもっと図々しかったとも思います。
若い女がたいへんだったのね、と、うるうるするのはなんだかなぁでした。
ただ、監督はそのような眼差しとはちょっと違う、のが救いです。
長谷さんが、晩年、ゲイと親密な人間関係を持てたのは、素直に喜ばしく感じました。
ハゲてて趣味だったのね。
先人はこんなに苦労して今を勝ち取ってきたのだ、も良いけど、昔の人も結構、楽しんでいたのよ、のほうが慰めになると思うのですが…
ちなみにこれはゲイの物語であって「同性愛者」の物語ではないです。
ビアンは出てきませんから。
同じ同性愛者として観たい作品だった。
ドキュメンタリー映画は飽きが来るタイプなんだけど、とてもリズミカルで観やすかった。
同性愛者だからこそ分かるクスッと笑える部分もあれば、しんどさや苦しさも良く理解出来た。
支えであるケアマネージャーでもあり親友の死、そして新たな出会い。
94歳にしても、まだ理想の男性像や夢を持ちときめく事、その全てが許される社会であって欲しいと思った。
薔薇族を発行した伊藤文学氏には俺も助けられてきた、
自分の場合はその後ろの広告部分であるゲイの売り専ボーイの求人を見つけ、働く中で同世代の同じ仲間達との出会いが人生を大きく変えていってくれた。
それは長くなるので自身のsnsにでも書き綴ろう、
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