劇場公開日 2023年3月17日

「立場に関わらず、日本を憂うすべての政治家、公務員、有権者に観てほしい」妖怪の孫 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0立場に関わらず、日本を憂うすべての政治家、公務員、有権者に観てほしい

2023年3月17日
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鑑賞方法:試写会

悲しい

知的

故・安倍晋三元総理とその政治姿勢の影に迫るドキュメンタリー映画と聞けば、自民党政治批判、体制批判と予断して、「観なくていいや」と敬遠する人が多いかもしれない。でも、ちょっと待って。政治家が自分の言動に責任を取らず、不都合なこと、不適切なことの後処理は秘書や官僚に押しつけ、場合によっては文書の内容や統計の数字をも変えさせ、批判的なマスコミの人事にまで干渉する、今の日本のままで本当にいいのだろうか?

内山雄人監督の「パンケーキを毒見する」のレビューで、「菅総理が誕生してから1年足らずで本作のようなドキュメンタリー映画を製作し公開までこぎつけたスタッフ陣の尽力にまずは敬意を表したい。本作の企画・製作などを務めたプロデューサーの河村光庸が手がけた『新聞記者』も、やはり日本では珍しく政権批判の姿勢を鮮明にした政治サスペンスドラマだった」と書いた。今回もまた難しい題材をスピーディーに劇場公開までこぎつけた関係者らの尽力に頭が下がるが、資料によると2022年7月の事件の前から河村プロデューサーが企画を立ち上げていたのだとか。だが河村氏が同年6月に死去、翌月にあの銃撃事件が起き、企画の存続が危ぶまれたものの、河村氏の遺志を受け継ぐ形で企画・プロデューサーを古賀茂明氏が担うことになったという。

「パンケーキを毒見する」に続き、SNSなどで政治的な発言をいとわない古舘寛治がナレーターを務めているのも嬉しい。もっとも、プレス資料に載っていたインタビューで、古舘さんは「ただ日本では、やはりこういった仕事を引き受ける人があまりいないようで、「それならば」と、断れなかったのが正直なところです」と語っている。ちょっと気になって、Wikipediaでテレビドラマ出演歴を見たら、民放ドラマの出演が2010年代に比べて20年代に大幅に減っているようだ。局側の政権への忖度とか、保守層からのクレームを恐れて起用を控えるとかでなければいいのだが。

本作で物足りなく感じるのは、あの銃撃事件そのものと、旧統一教会問題をほとんど取り上げていない点。おそらく製作費、スケジュール、尺の長さなどさまざまな事情から、それらは本作では主なテーマにしないと判断されたのだろう。河村氏が立ち上げ、「パンケーキを毒見する」と「妖怪の孫」を手がけた製作会社スターサンズにはぜひ、次作で旧統一教会と政治の問題に切り込んでいただきたいと大いに期待している。

高森 郁哉