劇場公開日 2023年4月7日

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「お洒落かつ、ディープ・・・振り幅の大きさに驚嘆する。」パリタクシー やまちょうさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5お洒落かつ、ディープ・・・振り幅の大きさに驚嘆する。

2023年4月8日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

幸せ

住んでる家から想像するにかなり裕福なお婆様、佇まいは貴婦人にもかかわらず、ユーモアに溢れて余裕があり、内面の美しさが滲み出る上品なお方がタクシーを頼んだお客様です。

一方、顔に金欠、免停寸前でイライラしてます・・・って書いてあり、いつ周囲の不特定多数の人間に八つ当たりの怒鳴り声あげようか、と準備しながら貧乏ゆすりしてそうな男が見えます。場外馬券売り場で休日の朝からたむろしてそうな風貌の中年おやじが、まさかのタクシードライバーでした。

何の因果か分かりませんが、そのご婦人とタクシードライバーは客と、タクシー運転手という関係で出会うわけですが、最初は水と油みたいな関係で反発しあうのかな、と予想します。

しかしそうではなく、彼女の海の様な包容力、そしてウィットに富んだ会話で殺伐とした車内の空気がみるみる変わっていったのは大変印象的でした。

ただ、それだと単なるハートウォーミングなパリを舞台としたお洒落映画ですが、彼女の過去が徐々に語られるにつれ、驚愕の事実が判明するのです。

煌びやかなパリの街並みは、今も昔も昼も夜も表面的には魅力的です。しかし戦前、戦後を経てフランスの社会と、そこに住む家族の営みは決して綺麗事だけじゃなく目を逸らしたい醜いものも当然あり、過酷な運命に対峙せざるを得なかったという彼女の告白の重さに思わず息を呑んでしまいました。

間違いなくタクシー運ちゃんの心境にシンクロしました。

この明暗のコントラストのはっきりした部分、その振り幅の大きさがこの作品を大変価値あるものにしていると感じました。

多少分かりやすく物語のフラグが立ちすぎてる点はちょっと気になりましたが、トリコロール(フランス国旗)に免じて許してあげたいです・・・旗(フラグ)だけに。

ご婦人に感化され、私も少しだけ人生楽しくなったかもしれない(笑)。

やまちょう