「なぜこれだけで映画化してしまったの?」沈黙の艦隊 福島健太さんの映画レビュー(感想・評価)
なぜこれだけで映画化してしまったの?
他の方のコメントで読んだのですが、原作は30年前に連載して全32巻にもなる長編らしいですね。
映画3部作予定の第1作とかいうのならいいです。
でも本作、続編が出なかったらただの意味不明な不完全燃焼ですよね?
燃料が燃え切らずに、ディーゼルエンジンから黒煙モクモクですよ。
続編が決まっていないのに回収できない伏線を張り巡らせて、なんなんです?
3年前の事故のときに艦長の判断で切り捨てられた乗組員の弟は、回想シーンでは兄弟仲が良さそうだったのに、一体なぜ、反乱行為に加担しているのでしょう?
部下を切り捨てることに一瞬も迷わなかった冷徹な艦長のどこに、世界を敵に回してまで戦争をなくす、平和にするという情熱があったのでしょう?
登場人物の行動を観客に納得させるだけの描写が全然ありません。
理由もなく不自然な行動をとるおかしな人達の、理由無き反乱劇ですか?
それなら、艦長は似合わない理想なんか掲げなくても、「理由なんか無い」でいいでしょう。
そもそも、原子力潜水艦1隻奪ったところで、テロは成功しません。
動力源の原子炉が長期間稼働しても、乗員には食料も水も必要です。
劇中では1発も撃たずに米軍の潜水艦を倒していたけれど、独立国家を宣言して世界と敵対していながら、将来にわたって撃たなくてはならない状況が訪れない保証はありません。
補給は必ず必要になります。
が、自衛隊や国の軍隊なら国民の税金で補給をするところ、潜水艦1隻しかない国に対して、誰が補給をおこない、武器弾薬の対価はどうやって支払われるのか?
潜水艦だって老朽化もするし、耐用年数の間だって点検や整備が必要です。
ただ走るだけの自動車でさえ多くの設備が必要で車検や12ヶ月点検が法律で定められているのに、海中数百メートルの、人間の生存を許さない環境で激しい戦闘行為をする潜水艦が整備のための必要な設備もないまま1年間、トラブルなく動くと思うのでしょうか?
ただ動向を観察しながらいずれの港にも寄港できないように締め出しておけば、それだけで勝手に根を上げることになるでしょう。
優秀な艦長の指揮のもと、海にいるから手をつけられないのであって、補給のために寄港すればそれで独立を維持する拠り所としての戦闘能力は無くなります。
「アメリカを怒らせてはいけない」という日本が、潜水艦たった1隻の独立できない国家もどきと軍事同盟を結ぶ理由もありません。
物語の続きを知る、原作のファンには興奮せずにはいられない素晴らしい出来だったかもしれません。
あるいは、映像の迫力にだけ興味があって、お話はどうでも良いという人は涙を流して喜ぼかもしれません。
たしかに潜水艦の戦闘は迫力があって、映像としてはすごかった。
でも、作中で起こった問題が何も解決しないまま尻切れとんぼに終わってしまったことも含めて、映画作品としては致命的なまでに欠陥があると思います。