「シーバット改め独立国やまと、迷航中…」沈黙の艦隊 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
シーバット改め独立国やまと、迷航中…
かわぐちかいじの名作コミックの実写映画化。
原作コミックは読んだ事ないが、OVAは見た事あり。
ファンが多い事で知られるこの作品だが、詳しい事はほとんど知らず。そのOVAもいつだったか何となく見たってだけ。
ただただスケールの大きそうな邦画ではなかなか無い潜水艦アクションという点にだけ興味惹かれて。
一級のエンターテイメントになっているか、それとも同原作者の『空母いぶき』のようなまたまた論争呼ぶ作品になっているか…?
日本近海で潜水艦“やまなみ”がアメリカの原潜“シーバット”と衝突して沈没。海江田艦長以下乗組員全員死亡とされた。
が、かつて海江田の下で副長を務めその人物を知り、この時近くを潜航していた“たつなみ”の艦長・深町は疑惑を抱く。
沈没時の音を徹底的に解析すると、驚きの事実に辿り着く。沈没は偽装。海江田たちは“シーバット”に乗り換えていた…!
極秘裏に日米間で、核ミサイル搭載の“シーバット”を日本が保有。
海江田はその艦長に選ばれ、ここまでは日本政府内でもごく一部の者が知っている事だったが…。
米との演習中、“シーバット”が逃亡。
海江田たちの目的は…?
やがて海江田はある“宣言”をする…。
表向きは不運な沈没事故。が、その真相は日本国民、誰も知らない…。
深海で起きた謎、極秘裏の目的、それらを出し抜いて…。
当該者たち、日本政府、アメリカ…思惑交錯し、前半はサスペンスタッチ。
せっかくの潜水艦映画。後半は潜水艦同士のバトルを活写。
映画史に残る潜水艦映画の名作群と比べるとさすがにちと物足りないかもしれないが、それでも頑張って醍醐味と迫力はあり。
シーバットvsたつなみvs米艦隊。
息を潜め緊張感たっぷりのソナー探知、心理と知力活かした戦術。
クラシック音楽を使った海江田の戦法は大胆。
大海原に響き渡るクラシック音楽は乙。その高揚感は私の大好きなアニメ『銀河英雄伝説』を彷彿させた。
ほとんど艦橋で仁王立ち。もうちょっと動きが欲しかったが、大沢たかおの存在感。またもや名将ぶりを見せ、いつ「んふっ」と言うか期待していた。(な~んてね)
“静”の大沢たかおに対し、熱血の玉木宏。彼もまた有能な指揮官ぶりを見せ、海江田とある過去が…。
彼配下の副長・水川あさみ、ソナーマンのユースケ・サンタマリアらが支える。
政府面でも明暗対立。信念貫く江口洋介官房長官に対し、夏川結衣防衛大臣は腹の底を見せず。
あの笹野サンが運転手から総理へ大出世! でもちょっと頼りなさげな…。
『VIVANT』でもそうだったが、クセ者黒幕は橋爪功(それか柄本明)の専売特許。
上戸彩は…、まあ…。
『ハケンアニメ!』で才を見せた吉野耕平監督。ガラリと違うアクション大作挑戦に一番驚き!
海江田の宣言。それは…
“独立国・やまと”。
シーバットを一つの“国”。自ら元首を名乗る。
『地獄の黙示録』でジャングルの奥地に自らの独立王国を築いたカーツ大佐レベルのキチガ…いや、トンデモ行動。
宣言は始まり。真の目的は…
地球を一つの国にする。
これを真面目に言ってるなら、正気を疑う。
じゃあその時、人種は?思想は?宗教は?…どうなると言うのだ?
それらは自由であるべきだ。それらを強制的に一つにするなら独裁だ。
海江田の姿を通して、世に問う。大義か、反逆か。
私には危険な独善にしか思えなかった。
『空母いぶき』でも国防について賛否起こしたが、本作でもまた。
日本が原潜を有する。独立国やまと。地球を一つの国に。
これらを通して、現日本や世界や今の世に何を訴えたいのか…?
オチも何だか。すでに幾つかのレビューで指摘されていたのである程度覚悟してはいたのだが…
独立国やまと宣言。一線交えた後、ある国と対話を求める。それは、日本…!
海江田はまだ何か目的を秘めているのか…?
日本はどうするのか…?
深町たち関与した者たちは…?
日本国民が平和ボケに暮らし、誰も知らぬ深く静かな深海で…。
…って所で終わる。
何の解決もしていない。
作品の出来映えや論争起こしそうな題材より、寧ろこっちの方が問題。
原作コミックは長寿作だが、映画もシリーズにしていくの…??
以上の事から結局最後まで乗り切れなかった。
世界最高水準の原潜、名将、ソナーでも、この潜航(映画)の行方を探知出来ていないかのようだった。