「面白かったが、連載漫画実写映画化の弊害も顕著な作品」沈黙の艦隊 といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
面白かったが、連載漫画実写映画化の弊害も顕著な作品
予告編を観て「絶対公開初日に鑑賞したい」と思っていた作品。
公開初日のレイトショーにて鑑賞いたしました。
結論としては、「面白いけど、惜しい」という感じ。
役者陣は素晴らしいし、脚本も面白いし、映像は見事に作りこまれています。本作の監督を務めた吉野耕平監督は『水曜日が消えた』『ハケンアニメ!』などの名作映画を量産している監督なので、実力は疑う余地もなく、本作も素晴らしい作品だったと思います。
ただ、全32巻もある長編漫画である原作をたった2時間の映画で描けるわけもなく、本作を観終わった後の率直な感想は「なんだか不完全燃焼」でした。物語が中途半端なところで終わり、私の後ろの席で鑑賞していたカップルが映画が終わってスタッフロールが流れたら「えっ、終わり?」って思わずポロっと言っちゃうくらいには、中途半端な終わり方でした。他の邦画でたまに見掛ける露骨に続編を匂わせるような展開にせずに、何とか綺麗に映画を〆ようとしているのが伝わる終わり方だったので好感持てましたが、「吉野耕平監督の手腕をもってしてもこんな出来になっちゃうんだ」と、漫画の実写映画化について軽い失望を覚えましたね。やっぱり連載漫画は映画ではなくドラマに向いてると本作を観て考えさせられました。
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日本近海で、自衛隊の潜水艦がアメリカの原子力潜水艦と接触して沈没するという事故が起こった。乗組員は全員死亡したとされていたが、海上自衛隊の潜水艦たつなみの艦長を務める深町洋(玉木宏)は、「絶対に乗組員は生きている」と確信していた。調査によって、潜水艦の沈没は、日本がアメリカから日本初の高性能原子力潜水艦「シーバット」を秘密裏に受け取るための国ぐるみの偽装工作であることが判明した。しかし、シーバットの艦長となった海江田四郎(大沢たかお)はシーバットに核ミサイルを搭載し、アメリカの指揮下を離れて逃亡してしまう。シーバットの撃沈のために作戦を開始したアメリカに先んじてシーバットを拿捕するため、深町は潜水艦たつなみで出撃する。
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この映画唯一にして最大の不満点。
34巻もある原作漫画の冒頭部分のみを映像化した作品なので、「俺たちの戦いはこれからだ」みたいなところで映画が終わり、とんでもない不完全燃焼感を観客に抱かせること。この映画、あらゆる面において素晴らしい作品だったのは疑う余地も無いんですが、どうしてこんなにも「不完全燃焼」「中途半端」って印象を抱いてしまうんだろう。
やっぱり2時間という時間的な制約がある映画で長期連載されていた漫画を実写化したら、「物語の中途半端なところで区切る」か「映画オリジナルのエンディングで無理やり完結させる」しかないんですよね。本作は前者ですね。オリジナルの結末は用意せず、原作の序盤の部分だけを映画化しているので、どうしても中途半端な印象は否めません。
多分今作が人気になったら続編が制作されるんでしょうけど、34巻もある原作を忠実に映像化しようとしたらいったい何本の映画を作る必要があるのか……。この映画に続編があるにしろ、長い原作を忠実に映画化しようとしたら尺足りないという問題はずっと付きまとうことになると思います。
ただ、先述の通りエンディングが中途半端な感じだったこと以外は本当に素晴らしい映画だったと思います。
個人的に気に入ったのは、最新鋭原子力潜水艦「シーバット」と、海自のディーゼル潜水艦「たつなみ」の描写の違い。特に操舵室の対比的な描写は印象的で、シーバットの操舵室は青く輝くモニターが並ぶ近未来的なデザインなのに、たつなみの操舵室は色が乏しく武骨で狭いという対比。操舵室の描写だけで、潜水艦としての性能の差が一目瞭然になっているのは素晴らしいですね。
そして、音響の素晴らしさ。これも挙げておかなければいけません。
光が一切届かない暗黒の深海では、周囲を確認する手段は「音」しかありません。逆に言えば、艦内で音を立ててしまうと相手に位置を気取られ、攻撃の標的となってしまいます。
劇中、スクリューを停止して海底で息を殺し、敵を待ち構えるというシーンが何度かあります。息をする音すら五月蠅く感じるほどの静寂。劇場内が、完全に無音になる印象的な瞬間でした。そうかと思えばクラシックが鳴り響いたり、冒頭では潜水艦が爆音で圧壊(水圧に耐えられず破壊されること)するシーンもあるので、音響のメリハリが凄まじいです。これはぜひ映画館の爆音で鑑賞してほしいですね。
最後に、役者陣の素晴らしさ。
製作にも携わった主演の大沢たかおさんの演技は予告編を観た段階から心つかまれるものがありましたし、玉木宏さんも迫力のある演技で素晴らしかったです。あと個人的にはシーバットのソナーマン溝口拓男役の前原滉さんが良いキャラしてましたね。初めて拝見した俳優さんですが、一発でファンになりました。原作未読なので完全に憶測の話ですけど、ディーゼル潜水艦たつなみのソナーマン南波栄一役のユースケ・サンタマリアさんと対比的に描かれるシーンが多く、よく似た眼鏡を掛けてるので「この二人には何か関係性があるのかな」と妄想をしてしまいました。
結末が中途半端だったので「大絶賛」とまではいきませんが、間違いなく映画館で観る価値のある作品だとは思います。オススメです!!