「夏の終わりの喪失の物語」夏の終わりに願うこと あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
夏の終わりの喪失の物語
まず、これは「コット はじめての夏」のような少女の出会いと別れ、そして成長を描いた作品ではない。原題の「Totem」ではさすがに商売にならないだろうから邦題はしょうがないと思うが、少女ものであるかの如くミスリードするのはいかがなものか?あまり取っつきのよい語り口でもないので「?」ってなってしまった人多いのでは?
この作品はその7歳の少女ソルを含む家族の喪失の物語である。家族構成が全て理解できたかどうか自信はないのだが(説明的なシーンが極端に少ない映画なので)この家族は、気道切開で声を失った父親、その長女(お金の心配でいつもイライラしている)、二女(キッチンドランカーで、エステルの母親)、そして末弟のトナ(ソルの父親)で構成される。あと娘、息子の連れ合いとソルの従兄弟たち。
おそらくはこの一家の希望の星はトナだったのだろう。パーティーに呼ばれた友達の多さからいってもトナはアクティブで性格もよく、家族を金銭的、精神的に支えてきたのだと思う。
その彼ががんを患い余命は短い。家族は怪しげな治療法や除霊師に頼りつつも、実はもう駄目だと思っている。だから彼の誕生日に友達を呼び、ひょっとしたらお別れになるかもしれないパーティーをすることとした。
Totem(トーテム)はトーテムポールのそれで、氏族に宗教的に結びついた、端的にいうと祖先神である動物を指す。勢いのある氏族は強い動物をトーテムとして持っている。エンドロールで描かれているヘビやゾウやコウモリやサルなど。
一方、ソルとその家族の周りにいるのはネコやイヌ、鳥、そして昆虫たち。いかにも弱々しい。これらはトナを喪うことで家運が傾くというか、家族が内外に持つパワーが失われていることを指している。
パーティーの終わりにソルと母親はガエターナ・ドニセッテイのアリアの当て振りでオペラのシーンを輝かしく演じる。これがこの家族の「夏の終わり」。最後に望みを聞かれたトナはなにもないと答え、ソルは黙って蝋燭の火を見つめる。家族と別離する予感は限りなく悲しい。この映画の監督リラ・アビレスは若くしてパートナーを亡くしたようであるがその経験が色濃く反映されているのだろう。