劇場公開日 2024年4月5日

「会いたかった…僕らはまた映画に恋をする"映画の魔法"賞」パスト ライブス 再会 とぽとぽさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0会いたかった…僕らはまた映画に恋をする"映画の魔法"賞

2024年4月6日
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ずっと探していたものがここにあった in アメリカ人が撮るよりも魅力的なNYという街で。自分の追い求めてきた夢や理想と、それらが手に入らない現実が、見事にハート(コア・核心)と言い換えられるエッセンスを最高密度に抽出しながら素敵な形で表現されていた。本作と恋に落ちるのにそう時間はかからない、あらゆる点で3層になっているドラマ、いや、8000層にも。そのあまりの愛しさに、スクリーンに釘付けになってしまった。最高にロマンチックで、途方もなく胸を締め付けられる切なさと静かな余韻がどこまでも私達を包み込むように残る。
『ビフォア・トリロジー』で『ロスト・イン・トランスレーション』で『エターナル・サンシャイン』のように普遍的なまでに力強く響く作家性、その語り口の言語化しきれない魅力・魔法が僕らを捉えて離さない。予告の締めやポスタービジュアルにも使われている観覧車の前に座る2人のショットが、やはり作品全体の象徴ショットだと思う。見つめ合う2人の間には明確に距離があって、3つの時代を彷彿とさせる3段の階段に、輪廻転生のように回る観覧車。主演2人の力も間違いなくある対照的なキャラクター。
オープニングシーンから引き込まれる。2つ(あるいは中国含む3つ)の街を対比的に捉えるエスタブリッシュ・ショットの美しさ。ヘサンがNYに上陸してから、入ってくるホテル内のショットの美しさには悶絶した。誰があのアングル見つけられるのか、という角度だけど、完璧に三分割法になっているし奥行きもしっかり感じる。豪雨の中、ホテルのロビーに座って過ごしているショットも、ドア枠の映り(影)で丁度見えるようになっている。…といった具合に、彼がノラと会うまでのモンタージュがあまりに魅力的かつ素晴らしい。
多くのアメリカ人監督が撮るよりも魅力的にこのニューヨークという街をレンズに収め、その世界中の人々を虜にする魅力をカメラを通してしっかりと捉えている。どのショットも素晴らしく、切実なまでにヒシヒシと意味・意図が伝わるようでいて、けど同時に永遠になぜそこまで魅力的(に見える)なのか解けない謎のように魅了され続ける。詳細な分析など要らないほどにどこまで魅力的に美しく撮るのか、どこまでも僕らの心に、瞼の裏に残り続ける素晴らしい画の数々。
NYの街を自由の女神とノラたちが見る構図も、移民にとってこの街や国が持つ意味を表しているようだった。自己実現のための存在証明。ユダヤ人(という点にも意味がある)の夫アーサーも"赤い糸で結ばれた運命の2人を邪魔するアメリカ白人"という感じでは決してなく、彼もまた本作にとって欠かすことのできない必然のキャラクターだ。演じるジョン・マガロの名演によって忘れられない人物となっている。
君は君だから僕は好きで、君は去っていく人…。"イニョン" 前世からの輪廻転生で運命のイタズラか摂理。例えば、実際に会って間もなく超ロングショットで歩く2人を構図の中で変わらぬ位置に据えたまま移動するパンなんかも、象徴的だった。こんなに近くにいるのに手の届かないもの。映画など見ていると結構よく出てくる台詞"See you in the next life."とはよく言ったもので、前前前世なんかより本作のほうがよっぽど前前前世だった。

P.S. スクリーンを出てすぐにサントラを聴き始めた。大人俳優に変わってからの2つ目の時代"12年前"のヘサン役ユ・テオが、イケメンにしたフルポン村上感少しあった。本作と『アイアン・クロー』どちらもずっと見たかった作品のため、日本公開の遅さにはヤキモキさせられたが、今週末公開A24ヤバすぎるだろという最強ラインナップ!! 日本の配給会社違うけど、これは勝ちに来たな。

勝手に関連作品『ビフォア』トリロジー、『ロスト・イン・トランスレーション』『エターナル・サンシャイン』『カモン・カモン』

とぽとぽ