劇場公開日 2024年1月5日

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「母親・アネの不安定さこそが根本的な問題点?」ミツバチと私 talkieさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0母親・アネの不安定さこそが根本的な問題点?

2025年2月18日
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鑑賞方法:DVD/BD

「坊や」というほどの意味だという「ココ」という名で呼ばれることを嫌うアイトール―。
さぞかし重たい問題だったことでしょう。8歳の彼(彼女というべきか?)にしてみれば。

そして、本作の場合は、アイトールのその重さ、そして、その重さに耐えかねての不安定さを必ずしもしっかりとは受け止めきれずに、自分自身も迷っていた母親・アネのその不安定さこそが、アイトールの不安定さをますます増幅していたように、評論子には思えてなりませんでした。
(父を超える彫刻家を目指しながら、彫刻家としてはなかなか自我を確立できずに煩悶(はんもん)するアネの苦悩も理解できないわけではありませんが、ここはいちばん、わが子の気持ちを考えて、どっしりと構えていて欲しかったというのが、評論子の思いです)

その意味では、アイトールは、迷いなく養蜂に打ち込む叔母の姿から、自分は自分の在りたいように在っていいのだということを学びとったのではないかと、評論子は思いました。

性的マイノリティを題材に据えているという点では、本作も、いわゆる「クイア映画」の範疇には属するのかも知れませんけれども。

他作が往々にして性的マイノリティにある人の苦悩を描きがちなことと対比して、本作は、性的マイノリティの少年が、その性分をそれとして受け止めながら、性的マイノリティとしての自己を同定してゆく過程を描いた作品として、他作とは一線を画しているようにも、評論子には思われました。

逆境の中でも信仰を貫いたとされる聖人に肖(あやか)って「ルシア」という女性名。
本作では、エンドロール近くになってから、彼への呼びかけとして登場するのですけれども。

周囲が、それを自然に受け入れる日が遠くないことを、祈らずにはいられないとも思いました。

自我の確立に悩み・苦しむアイトール(ルシア)の内面と彼(彼女)を取り巻く環境を浮き彫りにした一本として、佳作だったとも思います。

(追記)
映画.comの作品解説では「ハチや自然とのふれあいを通じて心をほど(いた)」とありますけれども。

しかし、評論子的には、養蜂家として(愛おしみを感じているミツバチたちとの関わりの中で)自らが選び取った職業を、迷うことなく営んでいた叔母・ルルデスの姿勢に共感し、感化されて、アイトール(ルシア)は自分の「立ち位置」を見定めていった―という方が、実際には近かったのではないかと、評論子は思います。

その意味では、映画.comの解説は、正鵠を得ていないのではないかとも思われました。

(追記)
<映画のことばに>
ミツバチはたくさんの種類がいて、人間にもよいことばかりだって

本作の原題は「二万種の蜂」ということですけれども。
蜂といえども二万種もいれば、いろいろな生態のものがいて当然という謂(いい)であれば原題の方が言い回しとしてシャープであり、邦題は、少し、そこいらへんのピントがボケてしまっていると感じたのは、果たして評論子、独りだけだったでしょうか。

talkie