劇場公開日 2024年1月5日

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「アイデンティティーをめぐる家族の不協和のゆくえ」ミツバチと私 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0アイデンティティーをめぐる家族の不協和のゆくえ

2024年1月20日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

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身体的には男性として生まれたけれど、男性的な名前「アイトール」やバスク地方で“坊や”を意味する愛称「ココ」で呼ばれることに反発し、性自認に悩む主人公。オーディションで女の子約500人の中から選ばれたソフィア・オテロが感情の揺らぎと精神的な成長を繊細かつみずみずしく演じた。ベルリン国際映画祭が2021年から俳優賞を一本化して男優・女優の区別をなくしたが、性的区別をしないという映画祭の理念にも合致する本作で2023年に主演俳優賞を史上最年少で受賞している。

母親のアネはそんな末っ子が抱える性自認の問題にどう接していいのか悩むが、著名な彫刻家の父と同じ道を志す彼女自身も、芸術家としてのアイデンティティーを確立できずに苦闘している。

長編初監督・脚脚本を手がけたエスティバリス・ウレソラ・ソラグレンが映画の舞台に選んだのは、自身の出身地でもあるスペイン領バスク地方。フランス領にもまたがるバスクという土地もまた、独自の言語があるものの近年話者が減ってきているそうで、地域としてのアイデンティティーの問題を抱えるという点において映画のメインテーマに呼応している。

子と母の転機になるのは、自分の信仰を貫いた聖ルチアの伝説。内なる心の声を信じることで、家族の不協和が美しいハーモニーへと変わる展開が胸に響く。

高森 郁哉