「この世界の終わりから、次の世界のあなたへ」世界の終わりから 唐揚げさんの映画レビュー(感想・評価)
この世界の終わりから、次の世界のあなたへ
両親を事故で亡くし、学校ではいじめに合い、居場所のない高校生、志門ハナ。
祖母も亡くし、生きる希望をも失いかけていた時、突然政府の人間を名乗る数人のグループから自分の見た“夢”を教えて欲しいと言われる。
2週間後にこの世界は終わると決まっており、それを変えられるのはハナが見る夢だけらしい。
困惑するハナだったが、その夜本当に不思議な夢を見たことを始まりにハナは世界の終末の鍵を握る重要人物になっていく……
紀里谷監督は名前だけは聞いたことがあって、正直あまり作品の評判は良くないといったイメージだった。
監督にとっての引退作。私にとっては最初にして最後の紀里谷作品になってしまったわけだけど、とんでもない。
心の底から素晴らしいと思える作品だった。
やっぱり色眼鏡で観てはいけない、本当に凄いものを観せてもらった。
話は世界の終末論。
この世界は全て運命というもので決められており、あと2週間で終わるこの世界を唯一変えることができるのは1人の少女ハナの見る夢。
はじめはファンタジー要素の強いこの設定から完全にフィクションとして観てしまう。
しかし、ハナと同じように次第にこれが私たちの物語に見えて仕方なくなってくる。
あまりに突然国の命運を背負うこととなったハナは、本当に自分に出来るのかと葛藤する。
我々は何故生きていくのか、こんな世界本当に続ける必要があるのか。
夢と現実、過去と現在、善と悪。
全てが揺らぎ出し、迫るタイムリミット。
全ては巡っている。
思想的な話っぽくなってしまうがそうではない。
歴史も命もこの世界も。
生と死、破壊と再生、何かの犠牲のもとにまた新たなものが生まれる。
不幸も何か希望のための犠牲なのかもしれない。
これは絶望の物語ではなく、紛れもない希望の物語。
世界の終わり、されどそれは新たな世界の始まり。
独特な世界観の演出や役者の演技も良かった。
冒頭で飛べない鳥がラストでは燃え盛る森へ飛んでいったり、時空を超えた伏線回収があったり、映像美だけじゃなく細かい部分でも演出面として見応えがあった。
湯婆婆すぎる夏木マリ、悪くて渋い圧倒的存在感の北村一輝、芯の通った強さがカッコ良すぎた朝比奈彩など、キャラクターも確立されている。
そして、なんと言っても伊東蒼の演技力よ。
彼女の健気な姿に自然と涙が溢れてくる。
もうかなり冒頭から泣いてしまった。
幸薄少女役が多いけど、毎回違う印象を与えてくれる女優さん。
今後の活躍にますます期待したい。
若林時英がああいう役だったのも個人的に嬉しかったし、岩井俊二監督もいきなり出てきてぶち上がった。
映画として面白いとかいう以前にただただ素晴らしかった。
感動というのはこういうことかと久しぶりに実感した。
映画という枠を飛び出した聖典のような作品。
映画としての好き度は暫定で今年3番目くらいだけど、今年のエッシャー通り枠、殿堂入り。言い過ぎか?
てか、なんでこういう作品に限ってパンフレットが無いんだよ〜!!
あと、監督まだまだ作品観たいです!!