「想いの海」世界の終わりから sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
想いの海
両親は既になく、唯一の身寄りだった祖母も亡くしてしまった孤独な高校生のハナ。
彼女は学校では苛められ、生活費を稼ぐのに精一杯のために進学することも諦め、人生に夢も希望も見出だせずにいた。
そんな彼女の前に突然政府の人間が現れ、彼女に世界を救う手助けをして欲しいと依頼する。
その方法は夢の内容を話すこと。
ここで冒頭の侍に襲われ両親を亡くした少女の場面の持つ意味が分かる。
ハナは夢を見る度に、戦の真っ只中にある過去の日本を舞台に、ユキという少女と行動を共にすることになる。
彼女たちは侍に襲われながら、ある手紙を祠に届けるという使命を受ける。
夢の中の行動の意味は何なのか、それが現実の世界にどう影響するのか、何故夢の内容を報告する必要があるのか、ハナ同様に観客にも情報は与えられない。
やがてハナは夢を通して過去から現実に影響を及ぼすことが出来る輪廻師の血を引いていることが分かる。
普通の人には変えられない運命を、ハナだけは変えられる可能性があるのだ。
SFの設定としては夢の中と現実の境目が分からなくなるので結構ややこしい内容ではあるが、この映画が描くのは人の想いの強さがどう世界を変えていくかだと思った。
強い想いは人を救いもするし、人を破滅に導きもする。
この映画では誰かの深い悲しみが、世界を終わりに導こうとしている。
想いは目に見えないからこそ恐ろしいものでもある。
強い想いが集まると人の感情は支配され、常識など簡単に通用しなくなってしまう。
怒りの感情に支配された暴徒の姿はとても恐ろしい。
ハナは世界を救うために身を削るが、その都度人間の身勝手さによって苦しめられてしまう。
彼女自身が人生の苦しみの中にいるために、果たしてこの世界を救う意味はあるのだろうかと考えてしまう。
一方でずっと孤独だと思っていた彼女は、両親からの愛の深さに気付き救われる場面もある。
彼女の両親は自分たちの身を犠牲にして、彼女を生かす道を選んだのだ。
幼馴染みのタケルもずっとハナに無償の愛を注いでいた。
これからも人間の営みが大きく変わることはないだろう。
不満や文句をぶつけるだけの人間もいるだろうし、自分勝手な人間もいるだろう。
しかし少しずつ人間の脳は意識のベクトルを変えつつあるのだと思いたい。
この映画が最後に込めた希望はとても優しい世界である。
たとえ争いがなくならないとしても、確実に世界が人に対して優しい方向に向かっていることを切に願いたい。
ストーリーも良かったが、この作品はキャスティングも絶妙だったと思う。
ハナ役を演じた伊東蒼は魅力的だが、決して華やかな女優ではない。
しかしそこがこの作品の世界観にとてもマッチしていたし、役に説得力があった。
彼女の表情の豊かさにはいつも感心させられる。
今後がますます楽しみな女優だ。