「どじょうの話」アンダーカレント humさんの映画レビュー(感想・評価)
どじょうの話
悟は今を
堀は過去を
かなえは傷ついた記憶を
封印する。
銭湯の客がする噂話を
遠くの雑音にすることで
普段通りの時間が流れるように
彼らはそうやって調節して生きる。
そして私やそれ以外の誰かも。
〝ずっと一緒にいた〟悟の、
そのままにしてある部屋だけが
わかっていたようでわかっていなかった夫を
責めるつもりもないかなえの気持ちに
リンクするように佇む。
それは優しさなんかではなく
弱さでもない。
抗えないことがあるのをわかっているから。
探偵を頼んでみたけれど
本当はその〝こたえ〟も
とうに心の奥にある。
ただそうするしかないのを
誰よりも知っている彼女だから。
程なく夫が見つかった知らせを受けた時
安堵と不安をうわまわり
堀を大切に感じる気持ちが
水面に向かう空気の玉のように
彼女の心に浮かびあがったのを
見たように感じた。
知っていた〝こたえ〟のありかを
ひとかきされて
水底が動きをみせた瞬間。
悟に再会し対峙した彼女は
新たな流れのなかで凛としていた。
だからあのマフラーには
これで最後と決めたひとかけらの愛情と
精一杯の赦しのサインを込めることが
できたのだと思う。
under currentー
蒼白い水の中で揺れてさまよう心。
そこに
かたちを変えながらようやく差して込んできた光は
すこし離れて歩くふたりに届くだろうか。
これからの
二人の時間に思いを馳せる静かな余白を
膝のうえの両手でそっと包みたくなった。
修正済み
humさんコメントありがとうございました。かなえの心の揺らぎを投影するような水面の揺らめきが印象的で美しい映画でした。
humさんの文章もいつも美しいですね。
共感ありがとうございます。
この映画のタイトル、洒落てますよね。所有してはいないんですが、同名のジャズアルバムのジャケットからインスパイアされたんでは?と思いました。風呂屋だけに水に関わるネタが多い、ドジョウも・・