「心の奥底に潜むのは、封印した記憶と忘却したい過去」アンダーカレント ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
心の奥底に潜むのは、封印した記憶と忘却したい過去
父親が遺した銭湯を夫と営んでいた
『かなえ(真木よう子)』は、
ある日夫の『悟(永山瑛太)』が突然失踪したことにより、
一時営業を中断していた。
が、再開したタイミングに合わせるように
組合から斡旋された寡黙な男『堀(井浦新)』が現れ
住み込みで働くように。
二人の息は思いのほか合い、
手伝いの叔母との三人による営業も順調に見えた。
しかし、友人に紹介された探偵『山崎(リリー・フランキー)』に
『悟』の調査を依頼したことから、
知ることの無かった夫の過去が浮かび上がる。
『山崎』が発する「人をわかるって、
どうゆいうことですか?」との言葉が象徴的。
主人公に向けて発せられたそれは、
とは言え実は多くの人に当てはまるだろう。
いや、他人どころか、
人は自身のことさえどれほどわかっているのか。
まさしく冒頭に示される
「心の底流(アンダーカレント)」は言い得て妙。
失踪した人間が抱える秘密とのプロットは
かなりありきたり。
ましてや本作で吐露される中身は
本人にはいざしらず、傍目からは軽めに思えるもの。
一方、その結果として炙り出される二人の過去の方がはるかに強烈で、
他作とはやや構成が異なる仕組み。
『かなえ』には幼い頃から繰り返し見る悪夢があり、
それは彼女の意識の底に押し込められた忌まわしい記憶から来るもののよう。
また『堀』にしても凄惨な体験をしており、
それへの強い思いが彼を突き動かす。
〔湯を沸かすほどの熱い愛(2016年)〕と近似の設定。
しかし主人公に子供はおらず{ファミリームービー}でもない。
主要な三人にまつわるエピソードが積み重なり明らかにされるたびに、
観ている側は陰鬱な気分に。
落ち着いた語り口も、展開される世界観はダークミステリー。
淡々と描写されるため強烈な衝撃はないものの、
彼女や彼等が背負う過去は
あまりに救いのないもの。
とは言えラストのシークエンスは
希望を持たせるものととらえたい。
膿を出し切った後の傷は生々しくとも、
次第に痕がふさがって行くように。