「「動機」を後付けにした是非」赦し R41さんの映画レビュー(感想・評価)
「動機」を後付けにした是非
タイトル通り、非常に難しい問題に焦点をあてた作品
両者の言い分が真っ向から対決しているわけではないことと、事件からすでに7年が経過してしまっている点がこの作品の特徴だと言える。
この少し時間経過したことが、関係者全員に変化を与えている。
特に面白いのが、監督やプロデューサーなどがインド人だということ。
なぜ彼らが日本の法律に関する作品を表現したかったのか、そこが一番気になる。
さて、
殺人事件が起きた。
被害者と加害者はクラスメートだった。
当時の裁判の問題点を突く形で始まった7年後の再審。
争点は当時未成年だったカナに対し20年という刑を下した是非と、その補償。
冒頭から娘を殺されたことで人生が壊れてしまった父と母とその憤りが描かれるが、何故カナがエミを殺したのかという点については触れられない。
これがこの事件の根幹であり、そもそもそこが明らかにされなければ殺人事件の刑期も明確にはできないはずだ。
これについては、カナが当時からずっと口をつぐんできたことになっている。
当時から再審途中までの間、カナの動機は全く触れられることなく、争点ではない単に殺人という「項目」のみに焦点が当てられてしまっていることに違和感を拭えない。
「赦し」
このタイトルにこそインド人監督の思いが詰まっているのは確かだろう。
それをそれぞれの事情と時間によって始末をつけていくのがこの物語だ。
テーマも内容も悪くないが、このカナの殺人に至る動機を途中で挿入してきた点にはモノ申したくなる部分がある。
これは裁判ではどんでん返し的な要素にはなるものの、いまの今までそこに焦点を当てなかったことは非常に考えにくい。
牢屋で眠るカナの夢に当時のいじめの様子が描かれることで彼女の動機がわかるが、まさかそれをずっと言わないでいたとは思いもしない。
加えてネグレクトだったカナの母が、娘の犯した罪の補償をして自殺したという心境は全く理解できない。
主人公はエミの父のカツだと思われるが、彼の壊れた人生と苦しみの代償をその原因であるカナにすべてをぶつけている点がこの物語の起点だ。
思いもしなかった再審などが始まり、再び過去と対峙しなければならなくなった苦悩。
その原因はカナにあると思い込んでいたことが少しずつ剥がされていく。
最後のシーンは印象的だ。
裁判所の前の道
傍聴人もすでにいなくなり、カツは自分の後ろにいる元妻のスミコの足音を聞き分ける。
でも彼は振り向くことなく太くまっすぐな道から左の細い道へ入る。
カツとは一定の距離を置きながらも、その道筋をその通りに付いて歩くスミコ
やがてフレームアウトする。
人生は順風満帆だと思われた。
しかし突然事件は起きた。
二人は人生が壊され彷徨いながら歩く。
エマの事件が解決するまでは、自分自身が納得できるまでは、結局のところ二人は同じ道を歩まざるを得ないのだろう。
カツが法廷で再度手錠を掛けられているカナを覗き見る。
カナの特徴ある目に映るのは、すべてをカナの所為にしてきた自分自身の姿だったのかもしれない。
フレームアウトした後、二人は別々の道を歩き始めるに違いない。
カツは酒浸りの生活にケリをつけた。
そしてスミコは直樹とやり直す決心をした。
結局のところ、
苦しみとは自分で終わらせるしかない。
監督はこのことを言いたかったのだろうと思う。
カツは酒浸ることをカナの所為にしてきた。
その苦悩をすべて彼女の所為にしてそれを生きる根拠に置き換えてきた。
エマにも大きな過失があった。
他人に殺意を抱かせ殺させるほどの過失だ。
特徴あるカナの顔つきは、どこか問題があるように思えてしまう。
いじめられていても不思議はない顔つきだ。
そして、カナの目に嘘はない。
これは物語の現時点ですでに一貫している。
正義という名のもとに補償というお金を窺う大人たちの本音
たまたま始まった再審によってカナは「正義」を押し付けられるが、自分自身の感覚とのギャップを感じる。
でもそれが彼女をこの事件を引き起こした深層心理へと誘う。
7年間で学んだこと
人と付き合うということを知らないでいたこと
やってしまったこと
取り返せないこと
もう一度自分が起こした事件を考えて出したことがスミコとの接見
謝罪と生い立ちと「人との付き合い方を知らなかった事」
話の途中で席を立ったスミコは、初めてカナの心境に触れ「動機」の一端を垣間見てしまった。
それは彼女の顔つきを見たときからすでに頭のどこかにあったのだろう。
「いじめ」
スミコが高校生だったら、きっとあの子をいじめている。そう思ったのかもしれない。
ただ、事件を起こした犯人としてしか見てこなかったことに対する「恐怖」
やがてカツも同じような心境へと変化したのだろう。
グラスの破片を袖口に忍ばせてエマの敵に一矢報いたいという思いが、寸前で思いとどまる。
河原はあの現場
娘と同じようにそこで血を洗う。
それが彼の赦しの象徴
若干わかりにくいところがあるがいい視点で作品を作ったと思う。
おはようございます。
なかなか見応えある作品でしたね。
私も動機の後出し・・・ここには疑問を感じました。
ここがこの映画の重要なプロットなので、ここを変えると
映画が成立しなくなりますよね。
そこが弱いですね。
R41さん、さらっと書きましたね。
〉特徴ある夏奈の顔つき・・・いじめられても不思議はない。
私も同じことを思いました。
いいレビューですね。